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2014年10月2日、オリックスが優勝を逃した夜、糸井、金子、柳田が集まって話したこと

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/09/07
note

注)オリックスファンの皆さん、今回はかなりエモーショナルです。そして長文です。けれど、ようやくこの話が出来るタイミングが来ました。宜しくお願い致します。

 あの日は誰もが18年ぶりに我らがオリックスがパ・リーグの頂点に立つと思っていた……前半戦を終わってソフトバンクを逆転しての首位ターン。9月はオリックス、ソフトバンクの壮絶な一騎打ち。9月25日には残り試合の関係で何とその時2位であったオリックスに優勝マジックが点灯するという異例の事態に。

 その後もソフトバンクに優勝マジックナンバーが点灯することはなく9月30日の時点で両チームゲーム差なし。勝率1厘差でソフトバンク首位、2位がオリックス。残り試合はソフトバンクが1試合、オリックスが3試合。状況を鑑みれば追い込まれているのは首位ソフトバンク、流れはオリックスにあった。

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 そして、勝利の神様のいたずらかペナントレースの日程は、その2日後の10月2日にソフトバンクvsオリックスの直接対決が組まれていた。この試合、ソフトバンクが優勝するには勝つしかない状況となり、引き分けか敗退であればオリックスに優勝の可能性が大きく見えてくる状況になっていた。

「これはいける。オリックスファンとして本当の嬉し涙を流せる日がついに来る……」

 僕はフジテレビのスポーツニュース番組「すぽると!」のキャスターとして連日、ソフトバンクとオリックスのデッドヒートを視聴者の皆様にお伝えしていた。もちろん冷静に、そして平等に。でも内心はと言うと子供の頃から観てきたグリーンスタジアム神戸での強く逞しきオリックスの姿を思い出し、隠してきたオリックス愛が爆発しそうな日々を送っていた。オンエア中は、主役は選手であり、ファンであり、視聴者の皆様というポリシーは絶対に崩さない。そう心に言い聞かせてきた。

今夜、負けさえなければオリックスに優勝は来る……

 そして迎えた大一番、2014年10月2日。

 先発はソフトバンクが大隣投手。オリックスはディクソン。左右の勝ち頭の投げ合いは頂上決戦に相応しい大熱戦を展開する。2回に細川捕手の犠牲フライでソフトバンクが先制。追うオリックスは7回に代打の原拓也のタイムリーにより同点に追いつく。僕は両チームの優勝対応放送の為にヤフオクドームのバックネット裏にあるメディア席にいた。後ろにはますだおかだの岡田圭右師匠。点が入るたび、オリックスが抑えるたびに師匠とは目を合わせて心情を分かち合わせて頂いた。

 終盤に継投策に入ったオリックスは馬原―佐藤達―平野と繋ぎソフトバンクに得点を見事に与えず、延長戦へ突入する。延長10回、先にチャンスを迎えたのはオリックス。2アウト満塁。バッターボックスにはペーニャ。打ち上げた当たりはヤフオクドーム天井に当たる大きなフライ。打球はファールゾーンに落ち、今宮健太のグラブの中へ。しびれた。結果はグラウンドルール上、アウトの判定。超絶紳士・森脇監督はルールを知っていたため、抗議には出ず、冷静にベンチに腰を据えたままだった。

 そして迎えた延長10回裏。マウンド上のマエストリが1アウト満塁のピンチを背負う。バッターは松田宣浩。明日なき戦いの10.2。まさに総力戦。ここで右の切り札である比嘉幹貴を森脇監督はマウンドに送る。今夜、負けさえなければオリックスに優勝は来る……ファンはそう信じていた。

 カウントは1ボール2ストライク。超満員のスタジアムは隣の人の声も良く聞こえないくらい興奮のるつぼだった。比嘉投手が投じた4球目だった。松田が外のスライダーを捉え、打球は左中間へ。この瞬間、オリックス悲願のリーグ優勝の夢は途絶えた……。プロ野球史上、22年ぶりにシーズン中、一度も優勝マジックが点灯しなかったチームであるソフトバンクがリーグ優勝を果たした。

2014年10月2日、ソフトバンクに敗れ、肩を落とすオリックスナイン

優勝を逃した夜、糸井と金子と3人で

「悔しいです。このタイミングで優勝できなかったのは。実はみんな満身創痍でした。肩が上がらない、肘が曲がらない、足が上がらない、腰が回らない……遠征が続く中で今日を迎えられたのは優勝の二文字があったからです」

 優勝を逃した夜、僕はオンエア後に優勝できなかった側のチームの糸井嘉男と金子弌大の2人と、今夜の試合の労いも兼ね食事をしていた。目の前にいる糸井、金子はオリックスの主砲と大エース。この1年、先頭に立ってチームを率いてきた。そして今日以降の事も計算しながらプレーしていた。もちろんリーグ優勝を果たすために。

「ホークスとの差は何だったのか……なぜ優勝できなかったのか」

 試合終了後、数時間が経っても自問自答する2人がいた。

 糸井が続ける。

「ネコはホンマ頑張りましたよ。えぐいっすよ。僕らが打てない試合をどんだけ救ってくれたか。16勝ですよ。馬原も平野もサトタツも比嘉も、若手もホンマ頑張った。僕らが打ってれば優勝できたんです」

 いやいや、あなた首位打者、最高出塁率をほぼ手中に収め、オールスターファン投票1位、おそらくベストナイン、ゴールデングラブ賞も獲得するであろうというモノ凄い活躍をしていたじゃないですか(……とその時、僕は内心思っていました)。

 金子千尋は言う。

「いえいえ、嘉男さんのお陰で僕らはここまで来れました。一つ思うのは、優勝は惜しかったねとか、また来年に頑張ろう、ではなくて今年、この日、この時、この瞬間に優勝する、勝ちたい、生き残りたい……その執念とそれを達成する技術があるかどうか。ここだと思いました」

 隣で糸井が深く頷いていた。今でもこの言葉は覚えている。次じゃダメ、今を勝ち取れるか。そこへの執着と技術があるかどうか……ここがあの10.2の勝敗の分かれ目だったんだと。

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