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平田真吾のど真ん中勝負にしびれた秋の夜…ベイスターズの未来を担うのは誰だ

文春野球コラム ペナントレース2021

 秋は横浜 ようよう黒くなりゆく星取表

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 これを書いているたったいま、ベイスターズが連敗を脱出しました。

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 嬉しいものですね。我が軍に光をもたらした希望の子の名は平田真吾。9連勝中のヤクルト、ミルミルS打線のどうにも止めようのない勢いを、中核の山田・村上で見事に止めてしまった。9回1死、2点リードとはいえ味方は総崩れとなり、勢いは完全にヤクルトでした。

 一発出ればサヨナラの場面で迎えた山田哲人に、解説を務める大洋の大エース・平松政次氏は「真ん中からインサイドに甘いボール来たらいきますよ」と予言したその2秒後。大先輩の面目とベンチの肝を同時にぶっつぶす、インハイのツーシームを放り込む豪胆さ。さらに続く村上には男度胸のど真ん中勝負だ。久々にしびれたね。

 フジテレビONE実況黒瀬翔生アナの「うちゅうかーーーん!」の嬌声と待ってましたのホームランアングルに横浜中が腰を抜かすなか、「俺、これまでに何本やられてると思ってるんですか?」って言いそうな涼しい顔してマウンドから降りてくる平田真吾の地獄力に、このどうしようもないと思っていた連敗の死地を生き抜くための希望の光を見出した人は少なくないのではないか。

9月29日のヤクルト戦 試合に勝利しタッチを交わすベイスターズナイン

なんでこれだけ選手がいて勝てないんだろうか

 さて、現実を見れば優勝はおろかCSに向けたこの季節の名物、ブースター的スローガンも出てくる気配がない久しぶりのおだやかな秋である。一時は借金完済も見え隠れしたが、この7連敗でなんとなく最下位脱出が現実的な目標となってきた気がする9月のおわり。明日から緊急事態宣言も明けるし、生ビール片手に生の森君が見れたらそれでいいやとお客さんが厭戦ムードに陥りそうなこのタイミングで見せた、番長のなりふり構わぬ残弾1のほぼ打ち尽くしマシンガン継投での勝利である。残り20試合、あやうく“来季への希望”なんて大義名分にもっていかれそうになる意識に渇を入れ、現世にとどめ置いてくれた功績は果てしなく大きい。

 しかし、ヤクルトの勢いはすごい。4月に11対11という見事な譲り合いドローをやってのけたときから、イヤな予感はあったが、ここまで5勝15敗2分けと完全なカモにされている。比べて去年まで先祖代々苦手にしてきた阪神にこそ今年は互角の戦いをしているが、ここまでベイスターズが勝ち越しているチームはどこもない。チーム防御率最下位、総失点は12球団ダントツ。そういう意味では最下位にいて然るべきなのかもしれないが、その一方でなんでこれだけ選手がいて勝てないんだろうかと疑問に思うこともある。

 開幕当初はスッカスカだった先発投手にしたって、今永・東がケガから復帰。ロメロが完封して、待望の京山が出てきた。前半戦絶不調だった大貫は戻ってきたし、石田は2年ぶりに先発に復帰してまずまずの投球を見せたりで、ここに濱口、平良、坂本、上茶谷らが揃ったらと考えてもみなさいよ。投手王国という美しすぎる四文字熟語がはっきりと見えて来るではないか。

 打線だってこの日、2番に佐野恵太、3番にはルーキー牧を入れた新オーダーが初回から機能して、3回で6対0。1番桑原、4番オースティン、5番宮崎とセ・リーグの打率ランキング上位が連なる打線は恐ろしく驚異的だが、なかでも1回、3回と先頭打者で仕事をした桑原の存在感に嬉しくなる。首位打者を争う位置にいるのはもちろん。3回の投手小川の悪送球を誘った気魄の走塁。ナンバーワンのセンター守備に、なにより桑原が元気だと「いける」という空気を作れる存在は大きい。2021年は“1番センター桑原”を取り戻しただけで十分にお釣りがくると、いつか言える日がくるんじゃないだろうか。

 あと、この日3番で3回にライトフェンス直撃の二塁打で62年ぶりに球団の新人最多記録を塗り替えた牧秀悟。ロペスの風格に、村田修一の応援歌に、田代コーチが「まったく手が掛からない」と絶賛するルーキーは、桑田武の記録を破ったことで、もはやひとり横浜右の強打者見本市と化した。外国人では、4回にホームランを打った4番のオースティンの勝負強さとひたむきさ。つい最近、背番号23の先達にして球団史上最強打者のあの方のお孫さんが同名だという話を聞いたが、それも偶然か運命か。いやー打線はやっぱりすごいよこのチームは。

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