歌舞伎座に特設席を作らせたメリー氏
タエミさんの「泰子ねえちゃんとの楽しい想い出」には、メリー晩年の仰天エピソードも含まれている。2005年(平成17)に、母のシカコさん他、親戚10名で日本を訪ねた時のこと。メリーが迎えに来るというのでホテルのロビーで待っていると、
「いきなりドーンとリムジンが着いたんです。私たちのために、泰子ねえちゃんが手配したという。それが特別車体が長いリムジンでね。東京は道が狭いから、警察が交通整理したり大騒ぎでした(笑)。で、そのリムジンが着いた先が超高級鮨店。しかも、泰子ねえちゃんがお店を貸切にさせたもんだから、お客は私たちだけ。アワビが好物の泰子ねえちゃんを真似て、私もアワビを食べまくりました。あんな豪勢なお鮨は後にも先にも!」
しかし、タエミさんたちには、さらなる驚きの出来事が待っていた。滞日中に歌舞伎を見ようということになったのだが、ちょうど中村勘三郎の襲名披露中でチケットは全席完売。あきらめていた彼女たちを前に、メリーはなんと天下の歌舞伎座を動かしたのだ。
「中央の通路に、急遽、椅子を10脚ほど特別に縦列にして並べさせたんです。いきなりの特設席ですよ。泰子ねえちゃんが、日本の芸能界で成功したことはもちろん知っていましたが、あれほどとは! でもねえ、他の観客たちにとっては奇異な光景でしょ。人々は目を点にして私たちを見るし、私たちだってうれしいやら恥ずかしいやらで、今でも親戚中の語り草になっています」
私がリタイアしたと伝えた時には「オー、ノー!」
タエミさんはメリーについて、「エネルギッシュできらびやか。今、この場で、何をどうすればいいかを判断する能力と、決めたことを即、実行する強さのある人」と、賛辞を惜しまない。
「それに、仕事がとことん好きでした。63歳になった私がリタイアしたと伝えた時には、即座に『オー、ノー!』(笑)。私は、リタイアメントをエンジョイしていると言ったんだけど、もう全然ダメなの。『自分は死ぬまで働く』と断言していましたが、そのとおりになりましたね。
あんなに懸命に生きた人だから、今はきっとニルヴァーナ、涅槃にいると私は信じています。そしてようやく、アメリカでは叶わなかった姉弟3人一緒の平穏で幸せな時を送っていることでしょう。本当にようやくね。泰子ねえちゃん、レスト・イン・ピース、どうぞ安らかに」
(文中敬称略)
