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9・11から20年…なぜタリバンはここまで「衰えない」のか《新首相ら幹部と対峙した日本人元外交官の証言》

9・11から20年…なぜタリバンはここまで「衰えない」のか《新首相ら幹部と対峙した日本人元外交官の証言》

元国連アフガン特別ミッション政務官・田中浩一郎氏インタビュー#1

2021/09/11
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 9・11同時多発テロから20年を迎えた今、古くて新しい問いが再び私たちの前に立ち現れている。

完成時に世界一の高さを誇り、ニューヨークのシンボルのひとつだった世界貿易センタービル(写真は1991年) ©iStock.com

 2001年の9・11を首謀した外国人オサマ・ビンラディンをかくまったことでアメリカの攻撃を受け、政権崩壊に至ったはずのアフガニスタンの「タリバン」が、追及の手を逃れ、散り散りになりながらも生きながらえ、今回の復活劇へと急展開しているのだ。

 私は、9・11の半年前に起きた「バーミヤンの大仏破壊事件」が、同時多発テロの「プレリュード(前奏曲)」だったという仮説に基づき、タリバンが国際テロ組織・アルカイダのリーダー、オサマ・ビンラディンによって乗っ取られていく道筋を取材した。それをNHKスペシャルとして放送し、書籍として『大仏破壊 ビンラディン、9・11へのプレリュード』(文春文庫、大宅壮一ノンフィクション賞受賞)にまとめた。

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 当事者であるタリバンや、彼らを良く知るアフガニスタン人、パキスタン人、そして欧米人らを広く取材したなかで、ストーリーの中心に据えたのが、日本人の国連外交官だった田中浩一郎さん(現・慶應義塾大学教授)だ。

 9・11に至る数年間、田中さんは、国連アフガニスタン特別ミッションの政務官として、数限りないほどタリバン政権下のアフガンに入り、その語学力を活かして今回の組閣で首相に選ばれたアフンド師をはじめ、30人を超えるタリバン幹部たちと渡り合い、様々な交渉を行ってきた。タリバンを、その各個人の性質や行動パターンに至るまで熟知している貴重な存在である。

 本稿では、再び世界の前に登場してきたタリバンとは何者なのか、現在も研究者としてアフガニスタン情勢についてフォローを続けている田中氏に聞いた。(全2回の1回目/#2を読む

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「謎の神学生」の正体

高木 タリバンは、8月15日にアフガニスタンの首都カブールを電光石火の進撃で「陥落」させました。田中さんは、どのようにお感じになりましたか。

田中 実は、2002年の夏から、「これはまずいな」と思い、発信していました。アフガニスタンを「きちんとしたかたちに整えなければいけない」という国際社会が持っていた狙いが、9・11から1年足らずで、別のところに持っていかれていくのを現地で目の当たりにしたからです。それが20年かけてここまで来てしまった、という印象を持っています。

高木 「別のところ」に持っていかれたというのは、具体的にはどういうことですか。

田中 2003年にアメリカがイラク戦争を遂行するわけですが、それに向けてアフガニスタンに対する関心が、その1年前の2002年夏から急速に下降線をたどり始め、アフガニスタン国民の間で「これって民主主義なの?」と感じてしまうような事態が、アメリカによって自ら作り出されていたのです。