昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「貸し借りちゅうのは大っ嫌い」尾畠さんの“処世術” 魚屋開業資金のために命綱なしで…

「文藝春秋」10月号「巻頭随筆」より

 最近、ワシのことを書いた本(『お天道様は見てる 尾畠春夫のことば』白石あづさ著)が出たそうで、なんか照れるわぁ。ワシは、新聞は毎朝「大分合同新聞」を1時間半かけて隅から隅まで読むんやけど、本は時間ばっかり取られるんで、ほとんど読まんのです。でも、この本は信頼しとる白石の姐さんが、3年もかけて書いてくれたんで嬉しいですね。見たら、ワシの昔の話もいっぱい出てきます。

 ワシは29の歳に地元の別府で魚屋を開業して、最初から65歳になったら閉めるって決めてたんで、ピタッと65歳の誕生日に閉店したんです。突然だったから、お客さんも驚いてね(笑)。そっから、夢だったボランティアをするようになったんです。ワシは自分の人生は自分で決めるし、他人に指図されるのはまっぴらごめんなんですわ。

ケースに板を乗せホースをレンガで押さえて水を流し厨房が完成。包丁は50年使っている。普段は栄養価が高い青魚を煮て食べるが、お客さんには黒鯛の刺身でおもてなし ©白石あづさ

「こっち来て、魚を捌いてみろ!」

 若い頃は、魚屋になるために、別府、下関、神戸を渡り歩いて合計10年修業しました。覚えとるのは、神戸の魚屋に履歴書も保証人もなく一か八かで飛び込んだときですわ。勇気を出して、「ここで、働かせてください!」ちゅうて大声で頼んだら、大勢の従業員が一斉にこっちを見てね。奥から主人が出てきて「こっち来て、魚を捌いてみろ!」って言われたんです。要は試験ちゅうか、ワシの腕を試したんですね。