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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2021/09/21

genre : ニュース, 社会

通電の恐怖から思考停止状態に

 この悲壮な決意への流れを見てわかる通り、こうした状況下においても、緒方や隆也さんといった大人のなかに、逃走や反撃といった考えがまったく生まれていない現実があった。それほどまでに、度重なる通電の苦痛やそれに対する恐怖などが、彼らの思考を停止させていたのである。

幼稚園勤務時代の緒方純子(1983年撮影)

〈隆也は、浴室ドアを開けて浴室内に入った。浴室内は電気がついていなかったが、洗面所の天井か洗面台の電気がついており、浴室窓の外からの明かりもあったので、浴室内の様子を見ることができた。智恵子は、浴室内で、頭を浴室の奥側に、足を入口側に向けて、身体を浴槽に付けるようにして仰向けに寝ていた。隆也がドアを開けたときも、智恵子は声を出さなかった。隆也が電気の延長コードを持って浴室内に入り、続いて花奈が浴室内に入った。隆也が花奈に智恵子の足を押さえるように指示したような記憶がある。隆也は智恵子の右肩辺りに智恵子の方を向いてしゃがんだ。花奈は智恵子の右膝辺りに智恵子の方を向いてしゃがんだ。緒方は、洗面所で立って、浴室内の様子を見ていた〉

「タカちゃん、私、死ぬと」「智恵子、すまんな」

「片野マンション」(仮名)30×号室の平面図を見ると、洗面所から浴室に抜ける扉を開けると、ちょうど真正面に横幅96cmの窓があり、そこまでの奥行きは150cm。また、浴槽は洗面所を背中にして、右斜め前の角に位置する。窓の外の近くに建物はなく、夜間なので路上の明かりではあるが、洗い場に外の光が入ってくるようになっていた。

「片野マンション」(仮名)30×号室の見取り図 ©️文藝春秋

〈隆也が、電気の延長コードを手にしてしゃがもうとしたとき、智恵子が、隆也が手にしていた電気の延長コードに気付き、「タカちゃん、私、死ぬと。」と言ったが、智恵子は何の抵抗もしなかった。隆也は、「智恵子、すまんな。」と言って、智恵子の首に電気の延長コードを1回巻き付け、首の前で交差させて両側に引っ張り、智恵子の首を絞めた。その際、花奈は、智恵子の両膝辺りを両手で押さえていた。緒方は、そのような様子を洗面所から立って見ていた。緒方は、隆也だけに実行させて申し訳ないという気持ち、隆也が花奈に足を押さえるように指示したことで仲間外れにされたような気持ち及び妹に最後のお別れをしたいとの気持ちから、隆也が智恵子の首を絞める際、智恵子のつま先辺りを持って押さえた。智恵子は足をばたつかせるなどの抵抗をしなかった。隆也は5分から10分くらい智恵子の首を絞め続けた。隆也は、和美事件のときのように智恵子の首を絞めた時間が10分かどうかを緒方に確認することはしなかった〉

 夫が首を絞め、10歳の娘が足を押さえる、そして姉がつま先に手を添える。

 そのようにして迎える死の現場をなんと形容するべきか、私は言葉を持たない。さらには生き残って逮捕され、後にそこでの状況を捜査員に語る緒方の心境も……。