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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2021/09/21

genre : ニュース, 社会

「お母さんの手を胸の前で組ませてあげなきゃ」

〈その後、隆也と花奈は洗面所へ移動した。隆也は、洗面所で、「とうとう自分の嫁さんまで殺してしまった。」と言って、すすり泣いた。花奈が、「お母さんの手を胸の前で組ませてあげなきゃ。」と言うと、隆也は、「ああ、そうだったね。」と言い、花奈が智恵子の手を組ませた。緒方、隆也及び花奈は呆然として立っており、重苦しい雰囲気の中で一言も会話をしなかった。緒方、隆也及び花奈は、ドアが開かなかったこと、松永が寝ていたので起こすと怒られて通電等の制裁を受けると思ったことから、智恵子の殺害後、松永に直ちにその報告をしなかった〉

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 そうした沈黙の時を破ったのは、自らの手を汚さない男、松永である。

〈緒方、隆也及び花奈が智恵子を殺害してから30分くらい経ったころ、松永が起きて洗面所に来た。緒方は、松永が洗面所ドアを開けたとき、松永に対し、「終わりました」と報告した。松永は一瞬怪訝そうな顔で緒方を見たが、何も尋ねなかった。松永は、浴室内には入らずに、洗面所から浴室ドアを開けて浴室内を一瞥すると、「何てことをしたんだ。」と言った。松永は浴室内に入って自ら智恵子の死亡を確認することはしなかった。緒方は、「ひょっとしたら、松永が智恵子の殺害を指示したと考えたのは自分たちの勘違いではなかったか。」と思い、隆也と顔を見合わせた。緒方は、松永から智恵子を殺害するまでの経緯等を聞かれたので、その説明をした。松永は、緒方に対し、「何でこんなことをしたんだ。何でする前に聞きに来なかったんだ。」などと言った。緒方は、「聞きに行こうと思ったんですけど、ドアが開かなかったんです。」と言ったが、松永は、「そんなことだろうと思って、早めに目が覚めた。お前は運が悪いな。」などと言った。緒方は、このような松永の言葉を聞き、やはり松永は智恵子の殺害を指示したのだと確信し、「知っていたくせに白々しいな。」、「あんたが指示したから殺したんじゃないの。」などと反感を抱いた〉

 このとき、どうしてドアが開かなかったのかについて、後の公判で明らかになることはなかった。そのため偶然だったのか、もしくは松永がなんらかの措置を取っていたのかは不明である。ただし、「そんなことだろうと思って」との松永の発言があることから、推して知るべしともいえる。

〈そのとき、甲女(広田清美さん)が洗面所付近に現れたが、松永は、甲女に対し、「こいつらが智恵ちゃんを殺しとるばい。関わりにならんほうがいい。行こう、行こう。」などと言った〉