清美さんの供述により浮かび上がる松永の行動
ここまでの状況は緒方による供述をもとにしたものであるが、判決文ではそこに清美さん(甲女)の供述をもとにした状況説明が加わっており、松永の行動がより立体的に浮かび上がる。
〈甲女は、「片野マンション」に着くと、松永の指示を受け、南側和室で布団を敷いて(松永と緒方の)長男と次男を寝かせた。松永は、台所で、緒方、隆也及び花奈に対し、「家族全員で話合いをしろ。」と言った。智恵子は、台所におらず、洗面所か浴室に居たと思う。甲女は、長男と次男を寝かせると、そのまま南側和室で寝ていた。甲女が眠るまでの間に、松永が南側和室に来て、甲女の横で寝たと思う。
その後、洗面所の方からドンドンと洗面所のドアを叩く音が聞こえ、甲女は松永から「起きろ。」と言われ、松永と一緒に洗面所の方に行った。そのときはまだ夜中であり、台所は豆電球がついているだけで暗かった。洗面所の入口ドアは閉まっており、洗面所の中から物音は聞こえなかった。松永は、ドアを開けて洗面所に入ったが、すぐに出て来て、甲女に対し、「殺しとるばい。」と言った。その後、緒方が、台所か洗面所で、松永に対し、「隆也が智恵子の首を絞めて殺した。」と報告した。甲女は台所に居てそれを聞いた。松永は、緒方の報告を聞き、「あんたたち、ようしきったね。俺が寝とう間に、ようそんなことしきるばい。呪われるぞ。」などと言った。その後、甲女は和室に戻って寝た〉
こうした松永による、責任逃れのための“演技”は、智恵子さんの遺体の解体についての話し合いの場でも実践されることになる。
(第73回へ続く)
