ディレクターとして中森明菜を担当した元ワーナーの島田雄三は、彼女の1年目の楽曲のコンセプトを「思春期の女の子が持っている表と裏をリアルに描く」と決めていた。繊細さとその裏にある不良性。島田は、「少女A」を作詞した売野雅勇に、「これからは2つの路線を交互に行きますから」と話していたという。
売野が当時を振り返る。
「その頃、私は明菜さんに一度だけ会っています。アルバムのレコーディングの時に、島田さんの計らいでスタジオで紹介されたのですが、『こんにちは。初めまして』と言っても、口も利いてくれないし、目も合わせてくれませんでした(笑)」
(「文藝春秋」2021年10月号より、全2回の2回目/#3から続く)
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思春期の表と裏
島田は「少女A」の次のシングルに、来生えつこ作詞、来生たかお作曲によるバラード、「セカンド・ラブ」を選んだ。
当初から明菜本人が志向していた清純派路線だったが、「会社の営業や宣伝からは『こんな愚作を作りやがって』と散々な言われ方でした」と島田は苦笑する。
「『少女A』と同じ路線を求められていることは分かっていましたが、それをやれば明菜とはまた大喧嘩になり、コミュニケーションが続かなくなる。『セカンド・ラブ』のレコーディングは事前にレッスンもやりましたが、明菜はずっとご機嫌で、私も手応えを感じました」(同前)
「セカンド・ラブ」は約77万枚を売り上げ、明菜の全シングルのなかで最大のヒットを記録した。狙いはピタリとハマり、売野が書く“ツッパリ路線”も83年以降、「1/2の神話」、「禁区」、「十戒(1984)」と快進撃を続けた。
コピーライター出身の売野には時代の風を敏感に感じ取るセンスと軽やかさがあった。島田は「誰かいい作曲家はいませんか?」と売野に尋ね、貪欲に新しいものを取り入れようとした。
「僕は『売れてないけど、今一緒にやっている大沢誉志幸は凄くいいですよ』と紹介しました。大沢君がハードロック調の曲を書いてきて、そこに僕が詞をつけ、『不良1/2』というタイトルをつけた。気に入っていたのですが、このタイトルが猛反発を受け、『1/2の神話』に変更を余儀なくされました」(売野)