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8分で350人前の肉が完売……畜産業界の異端児、成功の裏で苦難の連続だった道のり

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8分で350人前の肉が完売……“異色の牛飼い”が育てた「お母さん牛」に注文が殺到したワケ

「但馬牛」で知られる兵庫県に畜産業界の異端児がいる。大学卒業後にゼロから牛の繁殖をはじめた田中一馬さん(43)は、ブログやYouTubeなどで積極的にファンを集め、いまでは350人前を8分間で売り切る人気の生産者だ。しかしその道のりは苦難の連続だった。フリーライターの川内イオさんが取材した――。

※本稿は、パーソルグループのウェブサイト「はたわらワイド」で配信した記事を再編集したものです。

写真提供=田中畜産

但馬牛を育てる“異色の牛飼い”

Twitter、YouTubeなどSNSのフォロワーが合計で約5万人という異色の「牛飼い」がいます。高級和牛である但馬牛の産地、兵庫県香美町で和牛繁殖農家を営む田中一馬さんです。

肉牛を扱う畜産業界は分業制。まず、繁殖農家が母牛に種付けをして、産まれた子牛を生後6カ月~12カ月まで育てます。その子牛を買い付けるのが、肥育農家。十分に太らせて、生後2年半から3年ぐらいになると、市場で売りに出します。購入するのは肉屋さんで、牛肉にして販売します。

繁殖農家が田中さんの仕事ですが、別の顔も持っています。牛の爪を切る削蹄師であり、さらにオンラインで牛肉の販売もしているのです。

繁殖農家で削蹄師、そしてお肉の販売も手掛けているのは、全国でも田中さんひとり。駆け出しのころは「ずいぶんと叩かれた」という異端児の若かりしころを振り返りましょう。

「引くに引けなくなって」牛飼いの修行へ

田中さんは1978年、兵庫県三田市で生まれました。高校3年生のとき、たまたま、テレビでタレントの田中義剛さんが牧場をつくる番組を見て北海道酪農学園大学に入学。子どもの頃から動物が好きで、動物とかかわる仕事に憧れたのです。

大学では、肉牛研究会に所属。この研究会では、自分たちで牛舎を設計してDIYで建て、種付け、出産介助、飼育、排泄物からのたい肥づくり、精肉した後のお肉の販売まで行っていました。

18歳のまっさらな状態から肉牛にまつわる仕事をひと通り学んだ、濃密な4年間。その後、大学院に進学した田中さんでしたが、わずか1カ月で休学届を出し、兵庫県香美町の和牛繁殖農家で1年間の住み込みの研修を始めました。