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「痛いなら、もう頑張らなくてもいい」国枝慎吾選手を金メダルに導いた妻の言葉

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「肘が痛いなら、もう頑張らなくてもいい」そんな妻の言葉が国枝慎吾選手を金メダルに導いた

東京パラ大会の車いすテニス・男子シングルスで国枝慎吾選手が金メダルに輝いた。スポーツライターの本條強さんは「男子世界歴代最多の優勝記録を更新しつづけている。絶対王者と呼ばれるが、パートナーの愛さんの存在なくしてその記録はありえない」という――。

“魅せるテニス”への恐ろしいほどの重圧

「オレは最強だ!」

国枝慎吾はロッカーの鏡に映っている自分の顔に向かって言い聞かせた。

もうすぐ金メダルを賭けた最後の闘いが始まる。地元東京でのパラリンピック、どんなことがあっても負けるわけにはいかない。

車いすテニス男子シングルス決勝でプレーする国枝慎吾=2021年9月4日、東京・有明テニスの森公園(写真=時事通信フォト)

相手はオランダのトム・エフベリンク。37歳となった自分よりも9歳も若く、170kmの超高速サーブを放つ。しかし、怯(ひる)んでなどいられない。日本中に車椅子(いす)テニスの素晴らしさを伝えたい。車椅子テニスプレーヤーになりたいと思って欲しい。そのためにはなんとしても勝つことが必須となる。

「見る人の予想を遥(はる)かに超えるテニスをする。魅せるテニスをすることだ」

いつも考えていることを、この有明テニスセンターという大舞台でやってのけなくてはならない。上手いではなく凄いプレーをする。信じられないスーパーショットを決めてポイントを奪う。そうした健常者テニスに勝るとも劣らない車椅子テニスで金メダルを獲得する。国枝はこの東京パラでそれを実現すると自分自身に誓ってきたのだ。

こう誓いは恐ろしいほどの重圧が心にのしかかる。負けられない闘いであり、勝たなければならない闘い。自分はベテランの域も過ぎた年齢で肘痛も抱えている。2021年の今年はグランドスラム大会のすべてに敗れている。怖れは最高潮まで高まっていたのだ。

弱いからこそ、強くなれる

しかし、国枝はその怖れを払いのける。それにはこのまじないの言葉を叫ぶしかないのだ。

「オレは最強だ!」

オーストラリアのメンタルトレーナー、アン・クイーンが自分に授けた自信回復法。パラリンピックの選手村に入った時から、毎日毎日、言い続けてきた言葉だ。自分が最強であると自己暗示をかける。この言葉を放った後、勝利を手にしてガッツポーズをしている自分を頭に描く。そこまでを必ず行いきる。