「抗がん剤や放射線治療は効かない」。がん治療について、こんなあおり文句を載せた書籍がたくさんある。そうした書籍は「詐欺クリニック」の宣伝を兼ねている。東京大学病院で放射線治療専門医を務める上松正和さんは、患者の一人が騙されたことから、都内にある詐欺クリニックを直撃した。そこで医師が語ったウソの数々を紹介しよう――。
がん治療を巡る情報は生命に直結する
日本の死因の第一位は言うまでもなく「がん」である。がんに罹患する人は毎年約100万人、がんで死亡する人は毎年40万人弱となり、昨今ではがんについてさまざまな情報がテレビやインターネットで錯綜(さくそう)している。がんは生死を決めるため、つかんだ情報によっては大きく命を縮めることがある。
その一つが詐欺医療だ。全く根拠のない治療で「がんが治る」と言い、高額の治療費を請求する。こうした詐欺医療は、堂々とネットで広告を出していたり、ネット書店で著書が売れ行きトップになっていたりする。このため、いつ誰がその詐欺医療に引っかかってもおかしくない時代だ。
私は放射線治療専門医というがん治療を専門とする医師だ。現在東京大学病院で、その前は国立がん研究センター中央病院で勤務していたが、この詐欺医療によってがんを進行させてしまい手遅れになってしまった多くの患者をみてきた。今回は詐欺医療に引っかかった一人からその苦い経験を共有してほしいという申し出があり、実態を探るべくその都内のクリニックに向かった。
高評価の著書とサプリ広告に囲まれた待合室
初めから医師と名乗ると警戒されて門前払いやお茶を濁される可能性があったため、患者の家族を装って家族相談料2万円を支払い、実際に相談し会話を録音した。その医師の見解や治療法の全容を聞いたのちに医師と明かし、その医学的説明を迫った。
今回の設定は以下のとおりである。偽名としてマツカタという姓を名乗り、母親が左乳がんT1cN1M0(2cm以下の乳がんで脇のリンパ節転移が1つ、遠隔転移なし)で手術も抗がん剤も嫌がっているため、どのような治療があるかと相談をした。普通なら手術+放射線+薬で95%は治る見込みの状態だ。