昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「生前・遺品整理」担当者が遭遇 いつも同じカバンを使う、ゴミ部屋を作りやすい「大人のADHD」の典型的症状

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会, ライフスタイル, ヘルス

「いつも同じカバンを使う」ゴミ部屋を作りやすい"大人のADHD"の典型的症状【2021上半期BEST5】

2021年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。健康部門の第4位は――。(初公開日:2021年2月26日)

ゴミ袋が山積みで、風呂もトイレも使えないという1LDKに住む70歳の女性から、自治体を通じて「部屋を片付けてほしい」と依頼があった。作業開始から3時間ほどで室内はだいぶ片付いたが、作業後に依頼人が「お金がない!」と叫び出した。パニックになった依頼人がカバンの中をひっくり返す様子を見ながら、「発達障害の人が住む家は、ゴミ部屋になりやすい」という精神科医の仮屋暢聡医師の言葉が頭をよぎった——。(連載第10回)

仮屋暢聡医師

「いつもどこで寝てらっしゃるんですか?」

第9回から続く

生前・遺品整理会社「あんしんネット」の平出勝哉さんが「残りはどれを処分するか」と尋ねると、依頼人のSさんは「ベッドの上の物は触らないでほしい」と答える。

「それならゴミを捨てずに、ベッドの上の物を下に動かし、部屋の隅に整理しておくのはどうか?」と、平出さんは提案した。私もそれがいいと思った。しかしSさんは納得しない。私は床にひざまずき、Sさんに目線をあわせて話しかけた。

「いつもどこで寝てらっしゃるんですか?」
「ここのベッドの上で寝ている……いつもはそんなに置いていないから」

Sさんが私を見ずに答える。

「追加費用がかかるわけではないし、必要なことがあれば私たちを使ってほしい。ベッドの下のものだけでも処分してはどうでしょう」

ベッドの下にも食品保存用のプラ容器や本などが詰まっている。その隙間でゴキブリが走りまわっているのが見えた。せめてここだけでも片付けたい。

今夜もここで眠ることを思うと涙が出そうだった

「いい……」と、小さなSさんの声。

物を捨てられることに警戒心を抱いている。このとき私は自分の心に、Sさんにどうなってほしいかと問いかけた。

部屋を片付けることが私の目的ではないと思った。もちろん取材で来たわけだが、何とかSさんの生活を立て直せないだろうか。ゴキブリが走りまわるような衛生環境で、暖房器具が使えない寒い室内で、Sさんが今夜も眠ることを思うと涙が出そうだったのだ。