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連載サウナ人生、波乱万蒸。

「ただの雑木を近所のおっちゃんから買って、火入れに2時間半もかけてた」 サウナ経営初心者の33歳女性が“人間に戻る”ために作った“天空の城”

「ただの雑木を近所のおっちゃんから買って、火入れに2時間半もかけてた」 サウナ経営初心者の33歳女性が“人間に戻る”ために作った“天空の城”

ume,yamazoe#2

2021/10/12
note

 圧倒的なロケーションと美しい思想で古民家を改装した唯一無二の宿泊施設、ume,yamazoe。

 33歳のオーナー、梅守志歩は当初この施設にサウナを創るつもりはなかったという。

対立していた父も自由にさせてくれるように

「調べるうちに、農泊推進という、農家民泊を日本中に沢山作ろうという農水省の補助金があることが分かりました。新規事業を進めるには、自分たちで場所を持つ必要があると思い、土地購入の補助金を申請するときに出遭ったのがこの家です。

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 その頃には、対立していた父もどんどん自由にさせてくれるようになっていました。私も自分が言い出したことに関しては、結果を出すことに全力なので、そのうちに任せてくれるようになって。それでも会社としてブレないのは、両親の会社に対する考え方に、私がすごく共感しているからだと思います。うちの会社には『人が人を大切にし、国籍や人種、性別、障がい、病気を越えて、みんなが楽しく笑顔で生きられるような社会を事業活動を通して作る』という経営理念があります。

 妹が白血病だったときに経験したのですが、病院の無菌室だと、楽しみが何もないんですよね。唯一の楽しみって本当に食事だけで、豆腐で作ったハンバーグのような味気のないご飯だったとしても、その時間のために頑張って治療に堪える。私もよく病院に通ったのですが、小児がん病棟には、食べたいのに治療で食べられなくて、一日中泣いてる子もいます。“食べる”ということが、あと何時間、何日間、生きるためのエネルギーになっている実感が、両親にも私にもありました。私の両親はお寿司の製造販売においては、見た目の華やかさやおいしさに加えて、誰かと食べたときにその場がほころぶようなものを作ることを目指していました。私はそれを宿という体験を通して実現しようと思っただけで、やりたいことは一緒なんです」

綺麗に手入れされた玄関。この裏手にサウナ小屋がある。
 
入ってすぐのスペースでは地産の和紅茶なども楽しめる。

 両親が大切にしてきた経営理念を継承しながらも、違った形でビジネスを展開していく。理想の事業承継の形は、こういうことなのかもしれない。