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重粒子線の治療、臨床研究で日本をリード 各領域の専門医が揃い最善の治療を提案

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院

2021/10/29

がん死ゼロ健康長寿社会の実現を目指し、重粒子線治療を提供するQST病院。総実施件数は2021年3月に1万3000を超えた。良好な治療成績を得て一部のがんはすでに保険診療として行われ、重粒子線治療は身近になりつつある。

病院長
辻 比呂志
1982年北海道大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線治療専門医。専門は放射線腫瘍学、泌尿器腫瘍、眼科領域腫瘍。

 重粒子線治療は2003年に先進医療として承認され、16年に骨軟部腫瘍、18年に頭頸部がんの一部と前立腺がんが保険診療の対象になりました。当院でも保険診療で重粒子線治療を受ける方が増えています。

 重粒子線はターゲットの病巣で止まり、その奥の組織には影響が及ばないことが最大の特徴です。高い線量をがんに集中させて治療効果を上げる一方で、副作用は低く抑えられる安全性の高い治療法です。また、一般の放射線が効きにくいがんにも有効で、治療期間が短いという利点もあります。多くは外来通院で行え、疾患によっては1回の照射で治療が済みます。長い場合でも3~4週間で完了し、社会生活と治療を両立させている患者さんも数多くいます。

 局所療法なので転移がある場合には適しませんが、一部のがんは転移巣に対する治療が可能です。重粒子線で転移巣をしっかり治療することは、患者さんにとって大きなメリットです。

 量子科学技術研究開発機構を母体とする当院は臨床研究も重要な使命であり、より精度の高い照射法の開発や装置の小型化等に取り組んでいます。17年には、360度いずれの角度からも重粒子線をピンポイントに照射できる回転ガントリーによる治療を開始しました。最適の角度を選んで重粒子線を照射することにより、脊髄や神経などの重要な器官を避けながら、さらに高い線量を病巣に集中させることができるようになったのです。免疫チェックポイント阻害薬と重粒子線治療の併用療法の治験も始まっています。治療の難しい子宮がんと肝がんが対象ですが、良好な成績が得られると期待しています。早期乳がんに対する重粒子線治療の臨床試験も進行中です。切除することなく治療が可能になれば、患者さんの負担は大きく軽減するでしょう。

 装置の小型化にも力を入れ、現在は一般病院にも導入できるサイズの「量子メス」の開発を進めています。

 以前は特殊な治療であった重粒子線治療ですが、一部は保険診療になり標準治療に位置付けられました。手術が困難、一般の放射線が効きにくいという場合の1つの可能性として考え、積極的にご相談ください。

1994年に重粒子線治療を開始し実績を蓄積
1994年に重粒子線治療を開始し実績を蓄積

【頭蓋底腫瘍・頭頸部がん】放射線治療の難しいがんが保険適用に

小藤 昌志
1996年東北大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線治療専門医。専門は放射線腫瘍学、頭頸部腫瘍。

 頭蓋底や頭頸部のがんは、脳や目など重要な臓器をうまく避けながら治療する必要があります。そのため、重粒子線の「病巣で止まる」という特徴がよく生かせるのです。一部は保険診療で治療が行え、手術のできない頭蓋底腫瘍(脊索腫、軟骨肉腫)や、頭頸部・眼窩の非扁平上皮がん、粘膜悪性黒色腫、鼻副鼻腔・外耳道の扁平上皮がん、頭頸部肉腫が適用になっています。これらは、一般の放射線治療では重要臓器を守ることが難しい、または十分な効果が得られないがんですが、重粒子線治療は有効です。また、高齢などの理由で、放射線と抗がん薬を組み合わせた標準治療が難しい場合でも、重粒子線治療が可能なことがあります。当院は、このような患者さんの最後の砦であるという意識を持って治療にあたっています。26年にわたり積み重ねてきた経験と実績が、副作用の低減という面でも患者さんに利益をもたらし、各地の病院との連携も実現させています。

鼻や喉のがんの診断に必須の内視鏡検査
鼻や喉のがんの診断に必須の内視鏡検査

【骨軟部腫瘍】切除が難しい場合は重粒子線が保険適用

今井 礼子
1994年群馬大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線治療専門医。専門は放射線腫瘍学、骨軟部腫瘍。

 骨軟部肉腫は骨や血管、脂肪などから発生するがんで、生活習慣とは関係なく幅広い年齢層にみられます。治療の第一選択は手術ですが、腫瘍が大きい、重要臓器に腫瘍が浸潤している、手術後の機能損失が大きい、高齢などの理由で大手術に耐えられない、という場合に重粒子線治療が有効な治療法となりえます。肉腫には通常の放射線治療は効きにくく、抗がん剤のみで治癒することは困難なので重粒子線治療は重要な選択肢です。肉腫はとてもまれな疾患であるため診断が難しく、専門機関への早期受診が大切です。日本整形外科学会ホームページの「骨・軟部腫瘍相談コーナー」に専門医が出ています。地域の大学病院やがん診療連携拠点病院には肉腫センターが設置されていることもあります。希少がんのため情報が少なく不安になられる方も多いと思います。当院にも電話相談やセカンドオピニオン外来がありますのでぜひご利用いただければと思います。

明るく開放的な新治療研究棟のホール
明るく開放的な新治療研究棟のホール

【膵臓がん】手術できない部位の膵臓がんに効果発揮

篠藤 誠
2003年九州大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線治療専門医。専門は放射線腫瘍学。

 膵臓がんは、切除可能であれば手術が標準治療ですが、腫瘍が体の中心近くにあって重要な動脈に浸潤しているなど、手術が困難な場合も少なくありません。また、X線を用いた一般の放射線治療は膵臓がんに効きにくく、十分な効果を得られません。これは、膵臓の周囲には、消化管、肝、腎、脊髄などの副作用が出やすい臓器が近接していて、膵臓がんを制御するのに十分な線量を安全に投与することが困難なためです。一方、重粒子線は腫瘍に放射線を集中しやすいため、副作用を最小限に抑えつつ、より高い効果が期待できます。膵臓がんの重粒子線治療は、12回の照射を3週間で行います。遠方にお住まいの方は入院も可能ですが、基本的には通院で治療します。抗がん薬治療と併用するなど標準治療の中に重粒子線を組み込んで戦略を考え、地域の病院と緊密に連携してシームレスな治療を提供しています。最善の治療に結びつけてチャンスを提供するのが私たちの仕事だと考えています。

患者さんごとに緻密な治療計画を作成
患者さんごとに緻密な治療計画を作成

【大腸がん術後再発】骨盤内局所再発で手術に匹敵する効果

副病院長
山田 滋
1985年三重大学医学部卒。日本医学放射線学会放射線治療専門医。専門は放射線腫瘍学、消化器癌。

 重粒子線治療の対象となるのは、骨盤内局所再発、肺転移、肝転移、リンパ節転移ですが、中でも手術の難しい骨盤内局所再発に効果を発揮します。骨盤内には放射線に弱い腸や膀胱があり、一般の放射線治療では十分な量を照射できないことや、抗がん剤では満足すべき効果が得られ難いことも重粒子線に期待が集まる理由です。再発腫瘍が骨盤内にとどまり、腸や膀胱に浸潤のない患者さんが適応ですが、腫瘍と腸が接していても、手術により特殊なシートを入れて隙間を作り、重粒子線治療を行うことが可能になっています。また、他臓器に転移があっても切除予定であれば行うことができ、過去に一般の放射線治療を受けた方も治療可能です。当院では2021年3月までに660人の方に実施しましたが、初期の203人を解析したところ、5年生存率は50%と手術に匹敵する治療成績を認めました。他診療科とも連携し、常に患者さんにとって最適な治療を探っています。

適応判定、説明と同意で信頼関係を構築
適応判定、説明と同意で信頼関係を構築

INFORMATION

重粒子線治療専門病院として研究開発にも取り組む
重粒子線治療専門病院として研究開発にも取り組む

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構 QST病院

千葉県千葉市稲毛区穴川4-9-1
電話 043-206-3306(代表)
https://www.nirs.qst.go.jp/hospital/

出典 : 文春ムック スーパードクターに教わる最新治療2021-2022