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「寝たきりで苦痛でも平常心を保てる」チンパンジーと人間の幸福度を決定的に分ける"たった1つの違い"

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「寝たきりで苦痛でも平常心を保てる」チンパンジーと人間の幸福度を決定的に分ける"ある習性"

怒り、不安、悲しみ、恥、虚しさ。いずれも日常的な感情だが、発生している「苦しみ」の種類はそれぞれ違う。これらに共通するポイントとは、いったい何か。サイエンスライターの鈴木祐さんは「すべての状況は『あなたのニーズが満たされない状態』としてまとめられる。このような機能は人類特有と考えられている」という――。

※本稿は、鈴木祐『無(最高の状態)』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/slowmotiongli ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/slowmotiongli

ほぼ寝たきりでも絶望しないチンパンジー

京都大学の霊長類研究所で暮らすチンパンジーのレオが半身不随の重体に陥ったのは、2006年のことです。

病名は脊髄炎。ほぼ寝たきりとなったレオのために、教員と学生によるつきっきりの介護が始まりました(※1)

首から下を動かせないまま行動の自由を奪われ、寝床と身体の圧迫で血流が止まったせいで細胞が死に、全身を耐えがたい痛みが襲い続ける。たいていの人間ならば人生に絶望し、鬱病に襲われてもおかしくない状況です。

しかし、レオに絶望の様子はありませんでした。身体の痛みや空腹の辛さを訴えはするもののそれ以上の苦しみは表さず、ときに笑顔を浮かべる余裕すら見せたのだとか。

尿検査でもストレスホルモンは正常値を保ち、レオが半身不随の苦境をものともしなかった様子がうかがえます。

着実にリハビリをこなしたレオは1年で座れるようになり、3年後には歩行機能を取り戻しました。人間ならいつ絶望に飲み込まれてもおかしくない状況で、レオはどこまでも平常心を保ち続けたのです。

無論、このエピソードは動物が苦しみを持たないことを意味しません。「苦」の感情はあらゆる哺乳類に普遍的なものです。

人間と動物を分ける「たった1つの違い」

たとえば、インドの動物保護区では、老衰で命を落としたゾウを仲間が取り囲んで涙を流す様子がたびたび報告されています。

また、仲間から離れたヤギは肉親が死んだ際に発する周波数と同じ鳴き声をあげ、エサの分配が公平でないことに気づいた猿は監視員に毛を逆立てて怒りを表現し、子どもを亡くした親クジラは我が子の遺体を連れて延々と泳ぎ続けます。