昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2021/10/06

source : 提携メディア

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 読書, 娯楽

『ケンタロウの和食 ムズカシイことぬき!』ケンタロウ/講談社

自分なりに変化の要因を考えてみると、ふたつ理由がある。第一に、実際に料理をしたことで、食事の味がどういうふうにできているか理解できたことがある。味に対しての解像度が(低いなりに)上がったのだ。

そしてもうひとつは、いろんな料理本で料理写真を見るうちに、彩りに代表される見栄えも「おいしさ(おいしそう)」の重要な要素だということが刷り込まれたからだろう。これももちろん、そんなにレベルの高い話ではなく「プチトマト添えるとよい」とか「人参が入っているのがいい」とか「白いりゴマをふりかけるだけで料理っぽくなる」とか、そういう程度の話ではあるのだけど。

宮崎駿のダメ出し

と、ここで話題はまたアニメになる。映画『もののけ姫』の制作を追ったメイキング映像『「もののけ姫」はこうして生まれた。』だ。

『「もののけ姫」はこうして生まれた。』[DVD]/ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

同作にはスタジオジブリの新人研修の様子も収録されており、そこで新人たちは、セル絵の具を使って木のお盆に載ったステーキに実際に色をつけるという、仕上・彩色の実習に挑んでいる。
そこに宮崎監督が現れ、ある新人の塗ったステーキを講評する(この新人はのちに『天気の子』の作画監督を担当する田村篤)。

宮崎監督のダメ出しのポイントは「この色ではうまそうに見えない」ということ。指摘を要約すると「うまそうな色というのは、人間の感覚でいうと、彩度の高い色。焼け焦げた部分も、うまそうに感じられる茶色を置いていかないといけない。今塗っているものは、木のお盆が一番色鮮やかになっている」ということになる。

彩度が高いとおいしそうに感じられる、という宮崎監督の指摘からすぐ思い出されるのは、『アルプスの少女ハイジ』に出てくる、暖炉で炙ったチーズだ。あれは確かにはっきりした黄色だった。しかも、炙って溶け出すと白いハイライトが現れて、「おいしそう」という感覚をさらに強調する。

鮮やかな色の食材を配すると、食事がおいしそうに感じられるのは、(栄養価とは別に)おそらくこのアニメの食事をおいしそうと感じるメカニズムと同じところから生まれているに違いない。

z