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骨・運動器疾患に特化した専門医療を牽引 脊髄損傷の再生医療にも着手

独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター

2021/10/29

1941年の創設以来、高度な脊椎・脊髄疾患医療の拠点として知られる村山医療センター。整形外科領域を網羅する低侵襲医療にウイングを広げ、急性期から慢性期の一貫した治療で患者のQOLを守っている。

院長
谷戸 祥之
やと・よしゆき
1989年医師免許取得。慶應義塾大学病院、藤田保健衛生大学病院、防衛医科大学校などで臨床、研究、教育に携わる。2013年に手術部長として村山医療センターに赴任。副院長をへて2020年より現職。日本整形外科学会認定整形外科専門医、医学博士。

高度な低侵襲医療の先駆

「骨・運動器疾患」の臨床研究施設として、良質かつ高度な専門医療を提供する村山医療センター。中でも脊椎・脊髄疾患治療の拠点として、長く牽引役を果たしてきた。

 脊髄・脊髄疾患の手術は常に年間一千件を超えており、小児の側弯症治療など専門分野も充実。膝関節や股関節の変性疾患には人工関節置換術などで応える。近隣に手外科の専門外来がないことから、2018年に「手外科センター」も本格稼働させた。 

 整形外科領域をほぼ網羅し、「村山なら、何とかしてくれる」との世評の中で、特に患者の期待が高いのは、体の負担が少ない低侵襲医療である。

 その一つが、頸椎症のための低侵襲手術「選択的椎弓形成術(スキップ・ラミノプラスティ)」だ。

図① スキップ・ラミノプラスティの低侵襲性
頸椎後方の筋肉をできる限り温存しつつ、必要な箇所の神経の圧迫をとる新しい術式。
図① スキップ・ラミノプラスティの低侵襲性
頸椎後方の筋肉をできる限り温存しつつ、必要な箇所の神経の圧迫をとる新しい術式。

 谷戸祥之院長は「頸椎後方の筋肉をできる限り温存しつつ、必要な箇所の神経の圧迫をとる画期的な術式です。特殊な手術器具を使用するため、実施する医療機関は限られますが、当院で技術を継承し続けてきました」

 脊椎の固定術としては、従来よりもやや内側をスクリューで止めることで、筋肉への影響を低減した「CBT法」を採用。脊柱のズレや弯曲を矯正するXLIFやOLIFといったハイレベルな術式にも積極的だ。

図② CBT法の低侵襲性
従来のスクリューの入れ方と異なり、内側からスクリューを入れるため筋肉と神経をできるだけ温存する術式。
図② CBT法の低侵襲性
従来のスクリューの入れ方と異なり、内側からスクリューを入れるため筋肉と神経をできるだけ温存する術式。

「さらに手術の安全性と確実性を高めるため、術中CT撮影装置や、器具の挿入位置・方向を立体的に示す術中ナビゲーションシステム、電気刺激を利用し、神経への影響を可視化した術中モニタリングシステムをいち早く導入しました」

 新しいトピックは「スマートグラス」の開発だ。

「スマートグラスでは、レンズの右上に8mm角の透明モニターがはめ込まれ、ここに必要な情報を映し出すことができます。たとえば脊椎にスクリューを打ち込むとき、目視で挿入部位を、グラス上のナビゲーション画像で脊柱内部の位置や角度を、同時に把握できるのです。安全管理上のメリットは限りなく大きい」

 グラス上のサイズは小さいが、術者の視覚上は、2m前方の23インチ画面を眺めるのと同等。術野に集中しながら、頭に鮮明な情報をインプットできるというわけだ。手術時間の短縮にもつながる。

頸髄損傷への新たな取り組み

 谷戸院長が喫緊の課題として取り組んでいるのが「頸髄損傷」である。主に高齢者の転倒事故が原因で、近年増加が目立つという。

 脊髄そのものは一旦損傷すると回復不能な神経組織である。中でも上流にある頸髄は全身の末梢神経と連携する重要な部位で、四肢の運動麻痺、感覚障害、自律神経障害、排尿・排便障害など影響は多岐に及ぶ。脱臼した頸椎が頸髄を圧迫していれば早急に解除しなければならない。

「スマートグラス」を用いた手術により、視野を遮らない情報を表示。情報の集約化を手術中に行う。
「スマートグラス」を用いた手術により、視野を遮らない情報を表示。情報の集約化を手術中に行う。

 困難な重症事例でも一縷の望みをかけ、医療スタッフは最善を尽くす。

「最近も、海難事故で頸髄に損傷を負った男性を静岡の病院から防災ヘリで緊急搬送しました。夜を徹した手術で、下肢の完全麻痺は免れることができました」

 谷戸院長が頸髄損傷治療の新たな希望と位置付けるのが、再生医療である。村山医療センターと慶應義塾大学医学部との連携の下、IPS細胞から神経前駆細胞を大量に培養し脊髄に移植。機能回復に道を拓くもので、臨床研究が緒についた。世界的にも注目されるミッションである。

急性期の損傷患者を受け入れる村山医療センター。時には防災ヘリを使用した患者搬送を行うことも。
急性期の損傷患者を受け入れる村山医療センター。時には防災ヘリを使用した患者搬送を行うことも。

 急性期治療から、慢性期治療まで一貫して提供できるのも、村山医療センターの特長だ。一人ひとりの病状に合わせ、退院後の暮らしを見据えながら、オーダーメイドのリハビリテーションを行う。

 19年完成した6階建ての新病棟は、1階に回復期リハビリ病棟、2階が骨運動器疾患病棟、3階が地域包括ケア病棟。4~6階が一般病棟で、高度治療室4床も併設された。

 骨運動器疾患病棟は60床の脊髄損傷専門病棟である。看護の難易度が高く、回復期リハ病棟の数倍の人員を要するために、赤字覚悟の経営となる。村山医療センターは、こうした治療と支援を必要とする患者と家族の“最後の砦”であり続けてきた。

「新型コロナウイルス感染症対策も万全を期しています。病院のすべてのスタッフは、コロナ禍の1年8ヵ月、外食などリスクある行動を自らに固く禁じています。命をあずかる者として、これが“村山プライド”」

 一方、多くの総合病院では新型コロナウイルス感染症治療が優先され、整形外科手術に遅れが出始めた。

「たとえば高齢者の腰部脊柱管狭窄症は、命にかかわる疾患ではありませんが、神経の損傷が進んだ場合、排便・排尿機能が不可逆的なダメージを負う可能性があります。近い将来健康寿命を損ないかねません。今、村山医療センターの手術スケジュールは、紹介を受けた患者でフル稼働しています。患者さんを守るため、当院は防波堤とならねばなりません」と谷戸院長は語る。

 未曾有のコロナ禍において、村山医療センターは自らの「使命」と真剣に向き合っている。

INFORMATION

独立行政法人 国立病院機構 村山医療センター

受付時間/月~金 8:30~11:00
休診/土曜、日曜、祝日、年末年始
診療科目/内科・外科・整形外科・リハビリテーション科・泌尿器科・歯科
東京都武蔵村山市学園2-37-1
電話 042-561-1221
https://www.murayama-hosp.jp

出典 : 文春ムック スーパードクターに教わる最新治療2021-2022