起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。
もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第75回)。
5歳の佑介くんを次の標的に
1998年4月末、福岡県北九州市の「片野マンション」(仮名)に残ったのは、松永太と緒方純子、そして彼らの子供2人と広田清美さん(仮名、以下同)、さらに殺された緒方の妹夫婦の子供2人となった。
福岡地裁小倉支部で開かれた公判における検察側の論告書(以下、論告書)には、それまで松永らが緒方一家の大人を先に殺害し、子供を残した理由について触れている。
〈緒方一家を順次殺害するにあたり、幼い子供である花奈(緒方の妹夫婦の長女)や佑介(同長男)を手にかけるとなれば、孝(緒方の父)夫妻は孫を守るため、隆也(緒方の妹の夫)夫妻は子を守るために決死の抵抗に踏み切るおそれがあり、それでは、松永の計画は進行が著しく困難になる。そのため、松永は、まず緒方一家のうち、成人を順次殺害したものと認められる〉
なお当時、花奈ちゃんは10歳、佑介くんは5歳である。
そして松永は、次の標的を佑介くんに定めた。前記公判の判決文(以下、判決文)では、緒方の供述をもとにした、その経緯が説明されている。
〈緒方と花奈は、平成10年(98年)4月末ころ、隆也の死体解体作業を終えた。松永は、同年5月初めころから、緒方に対し、「これから佑介と花奈をどうするか。」、「佑介は(緒方一家事件のことを)しゃべるのではないか。」などと尋ねた。これに対し、緒方は、「佑介は何も知らないから、大丈夫ではないか。」と答え、一度だけであったが、松永に「佑介と花奈を西浦家(仮名。隆也さんの実家)に帰してはどうか。」と提案した。「このまま手元に置いてはどうか。」という提案もした。しかし、松永は、次のように反論して、それらの提案のいずれも拒絶した〉
以下、緒方が松永から聞かされたとされる発言である。
「花奈が佑介に(緒方一家事件のことを)教えるかもしれない。親が殺されたことを花奈が黙っているわけないだろう」
「佑介は何も知らないし、花奈は犯罪に加担しているから何も言わないかもしれないが、佑介や花奈が親戚の者に追及されたとき、花奈がちゃんと説明できるのか。お前に責任が持てるのか。子供だけ帰して他の者は失踪したとしたら、逆に疑惑を持たれるだろう」
「西浦家に帰して余計なことをしゃべったらどうするんだ。花奈が何も言わなかったにしても、親戚の者がいろいろ問いただしたりすれば逆効果になるだろう」
「手元に置いておくと、食費等で金がかかる」