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《名曲誕生の秘密》ジャミロクワイ「Virtual Insanity」と札幌駅のあまりにも深イイ関係

迷宮駅を探索する #2

2021/10/21

genre : ライフ, 社会, 歴史

note

一方で楽しく探索できる空間も

 駅周辺の地下エリアはまさに迷宮だが、札幌には楽しく探索できる地下空間もある。ウエストアベニューを南進し、南北線の改札の脇を通り過ぎると、一面のガラス扉が現れ、その先に延びる自由通路は近未来的なデザインで統一されている。隣接する建物の地下フロアが地下通路に接していて、おしゃれなカフェやショップがところどころに出現し、休憩できる広場もあって楽しめる。大通の下で二手に分かれ、直進すると、すすきの駅まで「ポールタウン」という地下街が連なっている。

 地下通路、それもひたすら一直線に進むルートなのに、周囲が変化に富んでいて実に面白い。札幌駅からすすきのまで南北約1.5km、地下鉄で2駅分の長さだが、季節や天候に左右されず快適に歩けるため、初めて札幌へ来た人にオススメしたい散歩ルートだ。

 札幌駅前通は地上を歩くのも楽しく、札幌駅から南下していくと、北3条通で右手に道庁赤れんが庁舎を、北1条通で左手に時計台をチラ見できる。大通ではさっぽろテレビ塔がドーンと出現し、南1条の札幌三越前で札幌市電(路面電車)が合流。

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さっぽろテレビ塔 ©iStock.com

 狸小路ではアーケードの商店街が左右に広がるなど、寄り道したい場所がいっぱいだ。地下通路は東西方向にも延びていて、大通の分岐を左に曲がると、テレビ塔方面に地下街の「オーロラタウン」が広がる。さらに進むとシンプルな通路が地下鉄東西線のバスセンター前駅へと接続していて、東6丁目まで達しており、東西方面にもトータルで約1.3kmの広がりがある。

ジャミロクワイは札幌駅から着想を得た

 イギリスのミュージシャン、ジャミロクワイのメンバーであるジェイ・ケイは、札幌の地下街から着想を得て、1996年9月にリリースされた名曲『Virtual Insanity』を作ったと話している。

『Virtual Insanity』PV(ジャミロクワイ公式You Tubeチャンネルより)

 ライブ中の発言だけにリップサービスではないか、札幌ではなく東京か仙台と記憶違いをしているのではないか、曲は『Virtual Insanity』ではなく『Didjital Vibrations』ではないかなど様々な説があるが、ジェイ・ケイ本人が発言したことは事実だ。ジャミロクワイはリリース前年の1995年2月に札幌公演を行っており、信憑性も十分にある。

 もっともこの曲は、世界が「仮想の狂気」で作られているというシニカルな内容だ。だが札幌の地下街をくまなく歩いてみると、確かに他の都市とはちょっと違った迫力がある。

 ゾーンによってガラリと変わるデザインは意外性があるし、冷暖房の断熱のために設置されたガラス扉は近未来的な雰囲気作りに一役買っている。なにより冬期は、純白の屋外とのギャップが著しい。世界的アーティストにインスピレーションを与えたと言われても不思議ではないほど、札幌の地下空間は魅惑的で面白い。

迷宮駅を探索する (星海社新書)

渡瀬 基樹

星海社

2021年9月24日 発売

《名曲誕生の秘密》ジャミロクワイ「Virtual Insanity」と札幌駅のあまりにも深イイ関係

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