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《不公正に操作される株価》怪しい企業の裏に必ずセットで付いてくる…“札つき”の問題監査法人による“あくどいやり口”の実態

『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』より #1

2021/11/11

 開成高校、東京大学法学部を卒業し、大蔵省に入省したエリート官僚でありながら、保守本流の道は歩まず、「異能の官僚」として数々の金融事件に対処し続けた佐々木清隆氏。金融犯罪を追い続けてきた男が目にしてきた“腐敗”にはどんなものがあったのだろう。

 ここでは、朝日新聞記者の大鹿靖明氏が、佐々木氏の奮闘に迫った著書『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』(講談社)の一部を抜粋。不公正なやり取りに手を染める企業・監査法人を監視するために設置された「公認会計士・監査審査会」でみた、札つきの問題監査法人によるあくどいやり口の実態に迫る。(全2回の1回目/後編を読む

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公認会計士・監査審査会という組織

 公認会計士・監査審査会は、エンロン事件を受けてアメリカで証券取引委員会(SEC)の傘下に公開企業会計監視委員会(PCAOB)が作られたのに倣い、それまで蔵相(財務相)の諮問機関だった公認会計士審査会を拡充して2004年にできた。同じように金融庁傘下の証券取引等監視委員会が400人体制であるのと比べて、新参の監査審査会は総務試験室と審査検査室の二つの室に60人余しかいない極めて小さな組織だった。

 このうち総務試験室はその名称があらわす通り、公認会計士試験の実施を主たる業務としていた。監査法人を検査する実働部隊である審査検査室のスタッフは室長以下、管理職を含めても40人しかいなかった。それが、トーマツ、あずさ、PwCあらた、新日本の四大監査法人から始まって、準大手、中小まで全国に250もある監査法人の検査を担う役目を負わされていた。とはいえ、こんな少人数の体制では、実際に検査できるのは年間せいぜい十数件程度しかなく、日本中の監査法人を一通り監査し終わるのには、単純に計算しても20年以上かかってしまう有り様だった。

2011年8月、金融庁検査局の審議官に就任

 佐々木は東日本大震災のあった11年の8月、金融庁検査局の審議官に就任すると同時に、この、金融庁の中でもあまり注目を集めることのない公認会計士・監査審査会の事務局長も併任することになった。監査審査会は小所帯ゆえに、事務局長は専任ではなく、「関係のある他の職のものを充てる」という充て職のポストだった。金融庁の中でも傍流の組織とみなされ、進んで行きたがる者はあまりいなかった。

「でも自分は行ってみたくて」と佐々木。「金融監督庁時代に銀行に検査に入ったとき、『長銀や日債銀を監査した監査法人はいったい何をやっていたのか』と思いました。それに監視委で、おかしな企業を継続的に注視していると、そこには必ず妙な監査法人の存在があったんです。仕事をしているうちに監査法人の問題が見えてきたんです」

 そんな問題意識があったものの、手兵は知れている。監査審査会の、わずか3チーム30人弱しかない検査チームがすべての監査法人をチェックしきれるわけがない。

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