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「とにかく、たっくんよりも良い結果を…」伊藤匠四段のライバルが奨励会を目指さなかった理由とは

「とにかく、たっくんよりも良い結果を…」伊藤匠四段のライバルが奨励会を目指さなかった理由とは

川島滉生さんインタビュー #1

2021/11/12
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 現役最年少の棋士・伊藤匠四段(19)が、新人王戦で優勝するなど活躍している。さらにABEMAトーナメントでは、「最年少+1」で同い年のチームメイト藤井聡太三冠とともに優勝を果たした。その際にネットで大きな話題となったのが、2人が小学校3年生のときに参加した「第9回小学館学年誌杯争奪全国小学生将棋大会・3年生の部」の上位3人の写真だ。

 準優勝は伊藤四段、3位は藤井三冠、そして優勝して真ん中に写るのが川島滉生さん(19)。伊藤四段と同じ「三軒茶屋将棋倶楽部」で腕を磨いてきた幼馴染だ。プロは目指さないと自分で決めたという川島さんに、伊藤四段との激しいライバル争いや「あの写真」の思い出について、なぜ奨励会試験を受けなかったのかを聞いてみた。

川島滉生(かわしま・こうせい)さん。2002年生まれ。神奈川県横浜市出身。私立攻玉社中学高校卒業。2018年、高1で全国高等学校将棋選手権男子個人の部優勝。現在は早稲田大学法学部1年生。将棋部に所属 ©石川啓次/文藝春秋

5歳で将棋を始め、近所の将棋教室に通う

「同じ小学1年生で、こんなに強い子がいるんだ」

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 2009年の初夏、川島滉生君は伊藤匠君を前に、惨敗した盤面を見つめていた。最初はあまりの強さに「もう、びっくりしました」。川島君だって1年生にしては相当強く自信もあった。でも、伊藤君ははるかに上。驚きの次に湧き上がってきたのが「勝てるようになりたい」という激しい闘志だ。

 三軒茶屋将棋倶楽部で初めて盤を挟んだ2人は、椅子に座ると足がつかないくらい小さかった。びっくりするくらい強い、色白のその少年は全国の同級生の中で1、2を争うくらい強いということを川島少年が知るのは、少し後になる。

 神奈川県に住む川島滉生さんは5歳で将棋を始め、近所の級位者向けの将棋教室に通い、めきめきと上達。1年生の春に小学生の全国大会・倉敷王将戦(低学年・高学年別に県代表を決める)の神奈川県代表を決める予選大会に出場したが、代表争いには絡めなかった。

負けん気に火が付いた川島少年は…

 しかし、連れて行ってくれた母は保護者同士の立ち話から、川島さんの運命を変える大きな情報を聞いてきた。「三軒茶屋にあるプロ棋士がやっている将棋教室には、強い子どもがたくさんいるらしい」。神奈川県外ではあるけれど、同じ東急沿線にあり40分くらいで行ける。代表になれず悔しがる息子に「試しに1回行ってみようか」と聞くと、「行きたい!」。即答だった。

 こうして川島少年は、宮田利男八段が教える「三軒茶屋将棋倶楽部」に連れて行ってもらった。当時、週末の午前中に宮田八段が小中学生相手の駒落ち指導対局をしていて、午後には子ども同士が自由に指す時間があった。同じ1年生ということで川島さんの前に座ったのが、その教室で「たっくん」と呼ばれていた伊藤匠現四段だ。

 負けん気に火が付いた川島少年は、土日には三軒茶屋に通い、伊藤少年を見かけるたびに「指そう」と挑んだ。