2005年11月15日、黒田慶樹さんとの結婚式と披露宴の日を迎えられた紀宮さま(現・黒田清子さん)。それから2年前の2003年4月18日、紀宮さま34歳のお誕生日に際しての山階鳥類研究所の元所長・山岸哲氏による祝辞「紀宮様のお誕生日に」(「文藝春秋」2003年7月号、巻頭随筆)を特別に公開する。
(※年齢、日付、呼称などは掲載当時のまま)
◆ ◆ ◆
1週間に2日、山階鳥類研究所へ
紀宮清子内親王殿下に、謹んでお誕生日のお祝いを申し上げます。天皇・皇后両陛下におかれましても、紀宮様がつつがなくお誕生日をお迎えになられましたこと、大変おめでとうございます。
ご臨席の大勢の皆様方の中で、私がこのようにご祝辞を申し上げるのが、ふさわしいのかどうか、はなはだ心もとないのでございますが、紀宮様が1週間のうちで2日も、我孫子の山階鳥類研究所へおでましになられているということは、じつに日中の時間の7分の2は、私どもの研究所でお過ごしになっておられるわけでございまして、研究所でのご研究振りなどを交えながら、山階でのご生活ぶりの一端を、両陛下にお伝えさせていただくと同時に、ご参会の皆様方にもあわせてお知らせし、私のお祝いの言葉に代えさせていただきたく存じます。
皇居は孤立した環境ではない
まず、紀宮様のご研究について申し上げます。宮様はいろいろ御研究あそばされておりますが、私は2つのことを強調させていただきます。ひとつは皇居でのカワセミのご研究で、もうひとつはジョン・グールドの鳥類図譜のご研究でございます。
カワセミのご研究は、このほど山階鳥類研究所研究報告創刊50周年記念号に論文としてまとめられました。12年間の長きに及び、きちんと個体識別のリングをつけられて継続観察されたその研究結果は重いものがございます。このご研究によって、カワセミの同じつがいが、うまくいくと、多いときには年間に3回、同一の巣穴で繁殖すること、事故がないと少なくとも2年間は同一のつがいが保たれたこと、皇居では1つの巣から、平均的に6羽強の雛が巣立ち、これはヨーロッパならび国内での数字と大差ないこと、などを実証的に明らかにされました。
とくに、皇居でリングをほどこしたカワセミが最も遠いところでは、24キロも離れた、清瀬市金山緑地公園に現れておりまして、大都会東京の中の皇居が決して孤立した環境ではなく、周りと見事につながっているのだということを証明されたことに私は大きな意義があったと思っております。また、研究の余談としてお伺いした、カワセミの雛がヘビに取られないように、害虫駆除用の粘着板を巣の周りにとりつけて、ヘビの侵入を防いだというお話には、私も似たような試みをフィールドでやったことがありますのでほほえましくお聞きいたしました。