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source : 文藝春秋 2015年3月号

genre : ニュース, 社会, ライフスタイル

「もう、こんなに痛いなら死んだほうがマシ」

 ところが、自宅で寝ていたら、お尻に近いところがどんどん痛くなってきます。その激痛といったら大変なもので、「もう、こんなに痛いなら死んだほうがマシ」と何度もつぶやきました。

 私はそれまで「死んだら、天国は退屈そうだから、地獄へ行きたい」と話していたのですが、地獄の責め苦がこれほど痛いなら、やっぱり天国がいいと考えを改めたくらいです。

 たまりかねて武田会長に電話すると、「病人が痛みを我慢することはない。すぐにいらっしゃい」と言われ、救急車で武田総合病院に運んでもらいました。

 そのまますぐに骨セメント注入療法の手術を受けました。腰に局部麻酔を打ち、痛くも痒くもないまま、半時間ほどであっという間に手術は終わりました。実に簡単なもので、それでもう圧迫骨折はほぼ完治です。

 本来なら数時間もすれば歩いて帰れるはずですが、どういうわけか、腰の激痛は収まりません。それは圧迫骨折が原因ではなく、皮膚の神経痛だとわかりました。麻酔を用いた神経ブロック療法を受け、通常の2倍くらい痛み止めの注射を打ってもらっても効かないのです。そこはやはり老化現象ということでした。

 とにかく痛みで動けないから入院していたのですが、治療の効果も見られないから「そろそろ退院しますか」と言われた頃、検査で胆のうに癌が見つかりました。

 ©文藝春秋

癌と分かって大騒ぎ

 自分が癌だと言われても、私は少しも動揺しませんでした。私の周囲には癌になった人が多く、肉親も恋人たちもみんな癌で死んでいったせいか、怖くなかったのです。しかもそのときに「この癌は消える、もう自分は癌で死ぬことはない」という確信がありました。

 あとになって、私が癌だという話が広まると大騒ぎになりました。エッセイに自分が癌だと書いたら、秘書は削ろうとしましたが、私は平気でそのまま掲載したのです。すると世間の反応は大変なもので、圧迫骨折がどうでもよくなってしまったほどです。

「ああ、みんなは本当に癌に弱いんだな」と改めて感じました。むしろ世間の敏感さに、こっちがびっくりしました。

 私の病室に癌の先生がこられて、「手術でとりますか? このままにしますか?」と尋ねられました。92歳という年齢を考えてのことでしょうが、私は「癌があるなら、ついでだから取ってください」と言いました。そうしたら先生はニコッとして「わかりました」と言って、9月17日の手術が決まりました。

後編に続く)

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