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瀬戸内寂聴さんは35歳のデビュー作で“卑しい匿名の批評”を次々と受けて…編集長がピシャリと告げた「お嬢さんじみたこと言ってちゃだめだね」

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source : 文藝春秋 2016年12月号

genre : エンタメ, ライフスタイル, 読書

 11月9日、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが心不全のため亡くなりました。享年99。初めて文芸誌に発表した小説である『花芯』(「新潮」昭和32年10月号)は文壇から酷評されました。デビュー作で「子宮作家」「エロ作家」のレッテルを貼られた35歳の瀬戸内寂聴さん(当時は晴美)は、その後5年にわたり、文芸誌に執筆する機会を閉ざされてしまいます。自身の人生の挫折、苦悩を明かした手記(「文藝春秋」2016年12月号)を特別に転載します。(全2回の1回目/後編に続く)

(※年齢、日付などは掲載当時のまま)

瀬戸内寂聴さん ©文藝春秋

◆ ◆ ◆

「これがこの作家の弱さだ」とデビュー作を酷評

 その前に書いた『女子大生・曲愛玲』が新潮社同人雑誌賞を受賞して、「これで作家になれる」と張り切って書いた作品が『花芯』でした。「子宮をもつということが、女の生にどうかかわるか」がテーマです。

 ところが、とても影響力のあった評論家の平野謙さんが、毎日新聞の文芸時評にこう書きました。

〈平凡な人妻が完全な娼婦にまで変容してゆく過程を描いたこの作品には、必要以上に「子宮」という言葉がつかわれている。(中略)三十娘の生理を描いた近作には、あきらかにマス・コミのセンセーショナリズムに対する追随がよみとれた。これがこの作家の弱さだ。(中略)麻薬の毒はすでにこの新人にまわりかけている。〉

©文藝春秋

 同時に取り上げられたのは、石原慎太郎さんの『完全な遊戯』と丹羽文雄さんの『祭の衣裳』で、エロ流行の時節に毒され、感覚が鈍磨している、と3人並べて批判されたんです。

 参ったのは、その尻馬に乗って、匿名の批評が次々に出たことです。「男と寝ながら書いている」とか「マスターベーションしながら書いた感じだ」とか、卑しくていやらしいのばっかり。