起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。
もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第80回)。
松永と緒方の写真を見せられ「どういう関係か」と尋ねられ
2003年5月2日、福岡県北九州市にある飲食店で、私はある女性と向き合っていた――。
松永太と緒方純子が逮捕されてから約1年2カ月後のことである。そのとき彼らはすでに2件の監禁致傷罪と詐欺罪、強盗罪及び、6件の殺人罪で起訴されており、あと1件、緒方の妹の夫である緒方隆也さん(仮名、以下同)への殺人罪で追起訴されると見られていた(追起訴は同年6月20日)。また、この19日後の5月21日には福岡地裁小倉支部で、初めて彼らが殺人罪で裁かれることになる、第3回公判が開かれる予定だった。
私の前にいる女性の名前は川口成美さん。取材時の年齢は20歳で、まもなく21歳になるという。中肉中背で肩の少し下まで髪を伸ばした彼女はほぼノーメイクで、派手な印象のまったくない、どちらかといえばおとなしそうな女の子だ。
成美さんのもとに福岡県警の捜査員がやってきたのは02年の3月か4月のこと。捜査員は彼女に松永と緒方の写真を見せ、「彼らの自宅にあなたの顔写真と住所があった。どういう関係ですか?」と尋ねてきたのである。
カラオケボックスの常連客
捜査員が示した男女の顔写真には見覚えがあった。その1年前の01年、成美さんは北九州市小倉北区にあるカラオケボックスで働いており、そこに常連として来ていた男女だったのだ。自分の写真を撮られた覚えは彼女になかった。
その場で捜査員から、写真の男女が世間で話題の「少女監禁事件」の犯人であると聞かされて、成美さんは驚いた。しかしその後、彼らの連続殺人が発覚していき、「北九州監禁連続殺人」の犯人であることを知るに至って、彼女は心の底から慄くことになる。というのも、成美さんはカラオケボックスに勤めていたとき、松永からずっと口説かれていたのだ。
以下、新たな“金づる”を求める松永の“標的”となった、成美さんへの取材で語られた内容を記す。