大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手(27)が、MVP(最優秀選手)に選ばれた。日本選手の受賞は、イチロー氏が受賞して以来、20年ぶり2人目の快挙。名将・ジョー・マドン監督は日本野球の影響も受けていたという。スポーツジャーナリストの斎藤庸裕氏による「大谷翔平『二刀流』を開眼させた男」(「文藝春秋」2021年9月号)を特別に全文公開する。(全2回の2回目/前編から続く)
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異彩を放つファッションセンス
最優秀監督賞を3度にわたり受賞するなど監督としての実績十分のマドン氏だが、その人間性も個性的かつ魅力的だ。
黒縁メガネやサングラスに白髭を生やし、ダンディーな雰囲気を漂わせる。オフは夫人とキャンピングカーで過ごし、ワインをたしなむ。ワイン通で知られる名将は、今季のオープン戦で大谷がバックスクリーン越えの特大弾を放った際には「ボトルに入れて、少なくとも10年キープしたい」と表現した。
18年のオフにラスベガスで行われたウインターミーティング。メジャーリーグ全チームの首脳が集まるイベントに個性あふれる格好で登場し、異彩を放っていた。
30球団の監督がそれぞれ行う公式会見の場で、スーツなどフォーマルな身だしなみで臨む監督が多いなか、黒と白を基調としたスタジャンを着用した。そのスタジャンの背には画家のサルバドール・ダリにキャッチャーのマスクをかぶせてアレンジしたものがプリントされていた。
マドン監督はこれまでの監督とどこが違うのか。
エンゼルスに入団後、大谷が接した監督はマドン氏を含め3人。メジャー1年目は、東京五輪で米国の代表監督を務めたマイク・ソーシア氏(62)、打者専念となったメジャー2年目はブラッド・オースマス氏(52)だった。3年目の昨季からマドン氏がエンゼルスの指揮をとる。
リアル二刀流によって、采配にマイナスの影響も
ソーシア監督は、日本ハムでのスケジュールを踏襲し、大谷を投打で起用。しかし右肘の怪我で戦線を離脱し、投手では登板数は10試合のみ。だが打者として104試合出場で打率2割8分5厘をマーク。また本塁打は自己最多タイの22本をマーク。つづくオースマス監督時代は、右肘の怪我の影響もあり打者に専念。106試合で18本塁打、打率2割8分6厘に終わった。
マドン氏は、ソーシア監督時代のうち00年から05年までエンゼルスでベンチコーチを務めるなど、ソーシア氏の右腕だった。現在も2人は交流をもっており、マドン氏がソーシア氏の大谷の起用法を参考にしているのは間違いないだろう。
またDH制がないナ・リーグのカブスで、マドン氏は監督を務めているが、その経験も「二刀流開眼」に影響を与えている。リアル二刀流によって、采配にマイナスの影響が出ても、マドン監督は意に介さないのだ。