文春オンライン

連載クローズアップ

「自分は白鳥だと思っています」傷ついた白鳥を世話するおじさん(57)を通して見つめる“自然といのちの四季”

槇谷茂博(監督)――クローズアップ

note

 11月27日より全国順次公開されるドキュメンタリー映画『私は白鳥』は、おじさんと一羽の白鳥を通して、自然といのちの四季を見つめる104分。

 本作は富山の放送局「チューリップテレビ」が2019年5月に放映したドキュメンタリーだが、優れた作品性が評価されTBS系で全国放送後に今回の映画化が決まった。監督はチューリップテレビ報道制作局の槇谷茂博副部長。

©2021映画『私は白鳥』製作委員会

「2017年、富山に飛来する白鳥の減少について調べたことがきっかけでした。取材を始めると、地元野鳥の会の方より詳しい人がいたんです」

ADVERTISEMENT

 その人こそ当時57歳の澤江弘一さんだった。

「取材から戻ったカメラマンが『一羽ずつ名前で呼んでいた』と言うんです。なんだか面白そうだからもう少し取材を続けてみることにしました」

 鼻先に黄色い点々がある、おはなちゃん。首が少し曲がったコンコルド君。嘴にトナカイの角のような模様があるトナカイ君――。結局、取材は4年に及んだ。訳がある。

「白鳥は越冬のためにシベリアからやって来て、10月から3月まで過ごすと再び北へ帰る。ところが2018年の春、翼の先の骨が折れた白鳥が一羽、帰れなくなってしまったんです。澤江さんはその白鳥に夏を越させて仲間と再会させたい、と世話を始めました。その様子に密着しました」

 その白鳥には名前を付けていない。以前、飛べずに残された白鳥に名前を付けたところ、死んでしまったからだ。

 澤江さんは、雨の日も雪の日も白鳥のいる水辺で声をかけ、餌を与え、仕事へと向かう。白鳥に魅せられたのは2013年。両親は既に他界し、父親から継いだ家業を営みながら、猫一匹と暮らす。なぜ白鳥にそこまでするのか、そう尋ねる記者に、澤江さんは、こうポツリと答える。

「心の隙間が、どういうわけか白鳥のかたちをしていたようで」。こうも言う。「私は人間のかたちをしてますが、自分は白鳥だと思ってます」――。

 中盤、傷ついた白鳥が人に警戒の色を見せる。気持ちを察した澤江さんは取材の中断を求め、そこからは自ら小型カメラで記録することにした。

 映画化については、当然の如く拒絶されたという。

「澤江さんにとって白鳥との時間は何よりも大切です。一日も長く生きてほしいと願っていたので、人に知られることで静かな環境が乱されることを危惧していました」

 話を動かしたのは白鳥だった。自ら川を10キロ近く下り、暫くするとまた元の場所へと戻る。まるで白鳥が不安を感じ取ったかのように動いたのだ。これなら心配ないだろうと澤江さんも応じたという。

「不思議なのですが、澤江さんは白鳥がどこに移っても見つけられる。そこには、誰も知ることのない澤江さんと白鳥だけの世界があるんです。澤江さんが撮った映像には、私たちでは絶対に収めることができない特別な空気が映っていて、驚きの連続でした」

 富山の自然を背景に、孤独の厳しさと美しさが映し出される。「語り」は、富山に縁(ゆかり)のある天海祐希が務めている。

まきたにしげひろ/1974年富山県生まれ。97年、北陸チューリップに入社し、その後チューリップテレビへ。チューリップテレビは2016年、富山市議会・自民党会派市議による政務活動費不正使用問題をスクープ報道。その後14人のドミノ辞職に繋がった4年間の記録を『はりぼて』として映画化し話題を呼んだ。

INFORMATION

映画『私は白鳥』
https://www.watashi-hakucho.com/

「自分は白鳥だと思っています」傷ついた白鳥を世話するおじさん(57)を通して見つめる“自然といのちの四季”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー