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「チームのことなんて考えなくていい」「自分の給料を上げなさい」 起業家が考える、“数字に強い”落合監督と似た“意外”なアパレル経営者とは

鈴木忠平×佐々木紀彦 #2

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 中日ドラゴンズ元監督・落合博満氏に密着取材した8年をもとに、名将の実像を『嫌われた監督』で書いた鈴木忠平氏。そして、NewsPicks創刊編集長などのニュースサイトを経て、2021年6月に経済人に役立つコンテンツサービス会社「PIVOT」を起業し、『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』を刊行した佐々木紀彦氏。40歳前後に会社を辞めて独立した2人が、“起業”と“落合野球”の共通点について語った。(全2回の2回目。前編を読む)

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落合監督を歴史上の人物に例えるなら「大久保利通」

鈴木 たくさんの起業家をご覧になってきた佐々木さんから見て、落合博満監督は誰に似ていますか。 

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佐々木 手腕はあって結果を出すけど、多くを語らないために誤解されて嫌われる人ですよね。ユニクロの柳井正さんでしょうか。徹底的に合理主義を貫いて、孤独を厭わずに突き進んでいく。あと、奥様と仲がいい(笑)。

鈴木 そうなんですか。落合さんも、信子夫人が最大の理解者ですからね。

佐々木 歴史上の人物なら、大久保利通でしょう。大久保ほど、合理主義を貫いた人はいません。西郷隆盛は長嶋さんですけど、嫌われた大久保のほうが歴史的には評価されています。もう一人思い出したのは、サッカーの中田英寿選手です。中田さんも個を大切にして、メディアにあまり語りませんでした。

佐々木紀彦氏 ©️文藝春秋

鈴木 サッカーで言えば、本田圭佑選手も似ているでしょうか。共通しているのは、集団から抜けて個で生きる人ですね。落合さんは「選手を好き嫌いで使わない」という主義で、コーチや番記者に対しても一貫していました。僕が8年間担当したからといって、情報をくれたわけではありません。だけど、すごくフェアなんです。

鈴木忠平氏 ©️文藝春秋

エンタメ要素は追求しなかった落合監督

佐々木 フェアというのは、大きなキーワードですね。本当のフェアなぶつかり合いが日常生活にないがゆえに、『嫌われた監督』を読むとカタルシスを感じるのかもしれません。日本ハムの監督になった新庄剛志さんは、落合さんに似ていると思いますか。全然違うと思いますか。

鈴木 就任会見を聞いていたら「ノーヒットで1点取る野球をする」と言っていたので、どこかで聞いたことがあると思いました。落合さんはバッターがヒットを打つ確率は良くて3割だ、とよく言っていました。打つことだけでは失敗する確率が高いので、四球や走塁によって、より得点の確率を上げるというのは理に適った考えだと思いました。

佐々木 合理主義を明るくやるのが、新庄さんなのでしょう。落合さんは、エンタメ要素は追求しませんでしたからね。