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拘置所内には“確定死刑囚”の“心を支える貴重な場所”がある…日本人のほとんどが知らない“死刑囚のリアルな暮らし”

『ルポ死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』より #1

2021/12/07
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 世論調査では日本国民の8割が死刑制度に「賛成」という結果が出ている。一方で、死刑の詳細は法務省によって徹底的に伏せられ、国民は実態を知らずに是非を判断させられていると指摘する有識者も少なくない。

 その一人が共同通信社で編集委員兼論説委員を務める佐藤大介氏だ。ここでは、同氏の著書『ルポ死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(幻冬舎新書)の一部を抜粋。確定死刑囚は一日をどのように過ごしているのか。生活の実態について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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空がわずかにのぞけるだけの独居房

 2021年10月16日現在、日本には112名の確定死刑囚がいる(釈放中の袴田巌さんを含む)。裁判で死刑が確定すると、被告人から死刑囚となり、絞首による死刑執行施設のある拘置所に収容される。死刑執行施設は、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の7拘置所に置かれている。刑務所ではなく拘置所に収容されるのは、確定死刑囚は執行によって死ぬこと自体が刑であり、服役囚のように刑務所で労務作業に従事する必要がないからだ。

 このうち半数に近い53人と、最も多くの確定死刑囚を収容しているのが東京拘置所だ。東京の下町を流れる荒川近くの住宅街にあり、約3千人が収容可能な国内最大の刑事施設で、確定死刑囚のほか、東京23区内での被疑者や被告人、関東地方の控訴・上告中の被告人、受刑者を収容している。

 1971年に東京・巣鴨から現在の葛飾区小菅(こすげ)に移転し、2012年3月には地下2階、地上12階、延べ床面積が約9万平方メートルに及ぶ新施設が完成した。巨大なオフィスビルのような灰色の建物で、中央に管理棟がそびえ、扇形の枠のように収容棟が配置されている。以前は高さ5メートル前後の外壁が周囲を取り囲んでいたが、圧迫感をなくすために撤去され、代わりにフェンスが設置された。

 だが、その内部に一歩足を踏み入れると、外部の世界とは一変し、重苦しく張り詰めた空気が漂う。

 死刑囚は「単独室」と呼ばれる独居房に収容され、その広さは約7.5平方メートル。特殊強化ガラスが入れられた窓に格子はないが、そこから見えるのは通路の先にある曇りガラスとよろい戸(ルーバー)のみ。空がわずかにのぞけるだけで、外の景色はほとんど見ることはできない。電車や車の音などもまったく聞こえず、外部から完全に遮断された空間となっている。