カッターナイフやライターを持って家の中を歩き回っていた
実家に戻った松尾容疑者はほとんど家から出ず、閉じこもった状態にあったという。そして妹夫婦に次第にこうこぼすようになる。
「家や土地、財産はあげるから生活保護を申請して欲しい」
「働きたくないから」
だが、松尾容疑者が望んだ生活保護は、すぐに受給できるものでもない。民法や生活保護法では、3親等以内の親族に扶養義務があるとされる。松尾容疑者は、扶養義務者にあたる妹と同居していることになる。
妹夫婦がそうした松尾容疑者に頭を悩ませたことは想像に難くない。仕事を探し、なんとか働くように説いた。それが松尾容疑者にとっては煩わしかった。カッターナイフやライターを持って家の中を歩き回ったり、壁をドンドン叩いたりといった行動をとった。自室でラジオを大音量で流すこともあったという。
松尾容疑者は逮捕後、こうも話している。
「就職を促してくる妹夫婦が嫌いだった」
生まれ育った実家にいながらにして、妹夫婦に就職を諭される生活。その鬱屈は何の罪もない小学生の甥たちですら疎ましく思わせたのだろうか。
兄弟2人でよく阪神タイガースの応援歌を歌っていた
妹一家は仲の良い4人家族だった。父の日になれば、兄弟は「パパ大好き」と書いた似顔絵を贈り、兄弟の誕生日が来れば父は「皆に好かれる優しい子供に成長を」と願った。事件の直前には一家で京都へ旅行にも行っていた。
普段からキャッチボールをして遊び、侑城君は「中学に入ったら野球部に入りたい」と楽しみにしていた。眞輝君の夢はプロ野球選手だった。2人でよく阪神タイガースの応援歌を歌っていたという。
通夜と翌日にあった葬儀には、合わせて350人が参列した。焼香の列は会場の外まで続き、会場では心労でとても表に立てず「静かに見送りたい」という両親のコメントが代読された。
「元気で優しい子たちでした。天国でも手を携えて、野球を楽しんでくれることでしょう」
参列者らは目頭に手を当て、ただ兄弟の冥福を願った。それでも田畑の中に優しい兄弟の声が響くことはもうない。