いま、東京都台東区・吉原の風俗業に携わる人々が、動向を注目している裁判がある。被告人は、東京都内に住む会社役員の男、A(50)。暴力団との関係も噂されるAは、高級ソープランド「X」を“代表”として仕切りソープ嬢とシャブセックスを行うなど、吉原で恐れられている。
Aは2019年12月から翌20年1月にかけ、東京都ほか複数県内において覚醒剤を使用したとして起訴された。しかし弁護側は「被告人がこの期間に故意に覚醒剤を使用したことはなく、逮捕に至る手続きに重大な違法がある」と無罪を主張している。(全2回の1回目。後編を読む)
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DVD内動画データの破損と覚醒剤入りペットボトル
弁護側によれば、公判前整理手続において、東京地検が証拠品として開示したDVD内の動画データが破損して逮捕日の動画が見られない状態になっていたことがわかったというのである。これは、A被告が当時居住していたマンション出入口付近に備え付けられていた秘匿カメラの映像だ。
11月1日に開かれた初公判において弁護側は、この破損した動画データは捜査機関により意図的に消去されたものであると主張。さらに、逮捕直前、A被告が喉の渇きを訴えた際、A被告の車にあったペットボトルを警察から渡されて飲んだが、そこに被告の知人女性が使っていた覚醒剤が混入していた可能性があり、A被告が意図的に覚醒剤を使用したわけではないとして、無罪を主張した。
逮捕後、被告の元妻の指示により運転手が車から持ち出し、被告のガレージに保管したペットボトルとその中の水を分析したところ、覚醒剤成分や被告のものとみられる唾液成分が検出されたという。
検察側の主張は当然ながら弁護側と真っ向から対立している。初公判冒頭陳述によれば、逮捕日の20年1月8日、警視庁愛宕署の刑事らが、マンション近くに停めた捜査車両2台に分かれて待機。うち1台に、その秘匿カメラの映像受信機とパソコンを持ち込み、映像を通じて出入り口付近の確認を行っていた。するとA被告の車が駐車場にやってきたことから、捜査員らは捜査車両を降り、マンション出入り口前へ。ところが「映像受信機とパソコンが積まれた捜査車両のドアを閉めた際、受信機の電源が切れてしまったため、それ以降の映像が保存されなかった」というのだ。よって、隠蔽の意図はなかったという主張だ。