オール巨人以外は90点台が並んだ
3年前、苦々しい表情を浮かべていた審査員たちも、このときは心の底から笑っていた。得点も、オール巨人以外は、90点台が並んだ。野田が感慨深げに語る。
「上沼さんの『94』を見たときは、やっと、2017年の呪いが解けたと思いましたね。ただ、本人は3年前のことを覚えていなかったらしいんですけど……」
上沼は講評でマヂカルラブリーのネタについてこう絶賛した。
「あんたらアホやろ。バカバカしさが突き抜けるのはもう芸術や」
1本目のネタでマヂカルラブリーは2位につけた。最終決戦におけるジャッジでは、7人の審査員の投票で最多となる3票を獲得。野田は天井を見上げた後、両ひざに手をつき、肩を震わせた。そして優勝トロフィーを手に、こう叫んだ。
「最下位とっても、優勝することあるんで。あきらめないでください! みなさん!」
最後は「ボケなし」だった。野田が力説する。
「個人がおもしろいと思う芸人なんて、くるんくるん変わるもの。僕らもあんなに叩かれたけど、くるんくるんしたじゃないですか。なので、今回、クソすべったとしても、次はバカウケすることもある」
次に笑わせたいのは……
今もユーチューブ界隈では、マヂカルラブリーが起こした漫才論争で大にぎわいだ。そんな状況に野田はいたって満足げだ。
「激荒れですね。荒れの中の荒れ」
漫才ではないという否定は、野田にとって誉め言葉に等しい。
「『クソイケメン野郎』って言われてるのと同じ。どう反応したらいいんだろう。ぜんぜんイケメンじゃないですよ、って言えばいいのかな」
ならず者の集団の中で揉まれてきた野田に言わせれば「僕らのネタなんて、所詮漫才」だそうだ。
「M-1でやったから驚かれただけで、地下の劇場でやったら何の目新しさもない。漫才を裏切ってみてくださいって言われて、じゃあ、しゃべりません、なんて誰でも思いつくこと。所詮漫才じゃない漫才の一投目みたいなネタですから」
村上の父、鈴木裕滋は最終決戦を観て、マヂカルラブリーのネタで初めて笑ったと言う。
「声を出して笑ってしまいました」
それに対し野田の母、チイは今回も理解不能だったそうだ。
「わたし、あの子たちのやるネタが、笑えないというか、好みじゃないんですよ。つまんないの……って、真顔で見ちゃうんです。あんなんで優勝しちゃっていいんですかね?」
野田はそんな状況にまたもや闘志をかき立てられていた。
「まだ戦いは続きます」
ただ、次に「どうしても笑わせたい人」は上沼以上に手ごわそうだ。
(文中敬称略)

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