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「藤井さんに勝てた理由は一言で言えます」“地球代表”の勝負師・深浦康市九段が考える、藤井四冠“攻略の極意”〈ベテランの経験は活きない〉

深浦康市九段インタビュー #2

source : 文藝春秋 2022年1月号

genre : エンタメ, 働き方, ライフスタイル, スポーツ

 4連勝のストレート勝ちで史上最年少の四冠に輝き、現在は最年少の五冠に挑んでいる将棋界の若きスター、藤井聡太氏。1月9日から開幕する「第71期ALSOK杯王将戦7番勝負第1局」では、名人・棋王も保持する渡辺明王将に挑む。

 藤井四冠に、唯一、2勝以上勝ち越し、「藤井さんに勝てた理由は一言で言えます」とその攻略法を明かしたベテラン棋士の深浦康市九段の手記(「文藝春秋」2022年1月号)を特別に全文公開する。(全2回の2回目/前編から続く)

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毎日のノルマを書いて、自分をとことん追い込んだ

 私が「簡単に負けたくない」と思う気持ちは、将棋を始めた頃から変わっていません。私は人一倍負けず嫌いな性格なんです。

 1972年、長崎県佐世保市に生まれた私は、小学1年生のとき、父から将棋を教わりました。内向的な性格だったので、何か趣味を見つけて、自信をつけて欲しいという思いがあったようです。

 小学4年生で将棋のクラブに入ると、周りの友だち全員に勝てたので、「自分が学校の中で一番強い」と思っていたら、一学年上の先輩に負けてしまったのです。

 ショックをうけた私は、アマチュア四段の方に月謝を払ってマンツーマンで教わるようになりました。「これで強くなって先輩に勝てる」と目論んだのですが、先輩もそれを聞きつけて、2人で同じ先生に教わることになった(笑)。

 教わる内容は2人とも同じですから、先輩に勝つには1人の時間に練習を頑張るしかない。新聞の広告チラシの裏に、「詰将棋を十問解く」「プロの将棋を3局勉強する」といった毎日のノルマを書いて、自分をとことん追い込みました。

深浦康市九段

 その先輩は中学校に進学してからは、将棋から離れてしまったのですが、それまではお互いに切磋琢磨していたので、いつの間にかアマチュア二、三段の力がついていました。小学生の県大会でも優勝できるようになり、棋士を目指そうと思うようになりました。

 そうは言っても、長崎には近くに棋士もいなければ、必要な情報も集まりません。家族や佐世保の将棋関係者の方々のご協力で、東京に住む棋士の花村元司九段を紹介していただきました。花村先生、兄弟子の森下卓さん(現九段)と1局ずつ指して、弟子入りを許されました。小学校を卒業した後、私は家族の元を離れて埼玉県大宮にある親戚の家に引っ越しました。そこから棋士の養成機関である奨励会に通うことになるのです。