昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「箱根駅伝」予選会の結果発表 出場校が直面する「敗者のジレンマ」《池井戸潤、新連載》

池井戸潤「俺たちの箱根駅伝」#2

2021/12/29

「半沢直樹」「下町ロケット」シリーズをはじめ、ベストセラー小説を書き続ける作家の池井戸潤さん。『陸王』『ノーサイド・ゲーム』『ルーズヴェルト・ゲーム』といったスポーツがテーマの作品も手掛けていますが、現在「週刊文春」で連載するのは、「俺たちの箱根駅伝」です。タイトルにもあるように、本連載の舞台は「東京箱根間往復大学駅伝競走」(以下、「箱根駅伝」)。1月2日と3日の2日間にわたって開催される、日本の正月の風物詩です。

 第1話は、本選の出場切符をかけた10月の予選会の場面から始まります。主人公の所属する明誠学院大学は、かつては箱根駅伝連覇も成し遂げたほどの伝統校でしたが、ここ2年は出場すら叶わず。まずは予選会の突破を目指すのだが――。きたる箱根駅伝本番に向けて、「俺たちの箱根駅伝」を一部抜粋して期間限定で公開します。(最初から読む

◆◆◆

【2】

 結果発表を待つ会場にいて、チームメイトたちはさっきからじゃれ合ったりつまらない冗談を飛ばしたりしている。

 落ち着かないのだ。

 10人全員がゴールした順位だけ観れば、上位での突破はまずあり得ない。

 8位か9位。いや、もしかすると10位ギリギリの予選通過である可能性も高い。

 いや、それならまだいい。

 隼斗(はやと)の胸に巣くっているのは、予選敗退の恐怖だ。

©iStock.com

 昨年の予選会のときと比べ、個人の走力は確実に上向いているはずであった。1万メートルの個人記録も、箱根駅伝出場校の選手たちと遜色ない。実力を出せば、予選突破は間違いない――。

 だが、それはあくまで全員が順調にレースを終えたときの話だ。その意味で一番期待を裏切ったのは誰あろう、隼斗自身であった。

 失速した選手の穴が埋められないのは層が薄いからだが、それには構造的な問題もある。

 箱根駅伝から遠ざかれば遠ざかるほど、いい選手は実績のある強豪校に流れるからだ。弱いからますます弱くなる、敗者のジレンマである。

 その選手たちの中にいて、ひとり監督の諸矢(もろや)だけがにこりともせず、舞台の上で順位が隠されたままのリーディングボードを睨み付けていた。

 今年65歳。

 かつて厳しい指導で知られた業界の名物監督だった諸矢も、OBに言わせれば随分と丸くなった。隼斗の印象では特に昨年あたりからスパルタでチームを引っ張る強引さが影を潜め、選手の自主性を尊重するかのような指導が目立つようになった気がする。