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「オレは――監督をやめる」「箱根駅伝」元強豪校の監督が“電撃辞任” 後任は誰に――?《池井戸潤、新連載》

池井戸潤「俺たちの箱根駅伝」#3

2021/12/30

「半沢直樹」「下町ロケット」シリーズをはじめ、ベストセラー小説を書き続ける作家の池井戸潤さん。『陸王』『ノーサイド・ゲーム』『ルーズヴェルト・ゲーム』といったスポーツがテーマの作品も手掛けていますが、現在「週刊文春」で連載するのは、「俺たちの箱根駅伝」です。タイトルにもあるように、本連載の舞台は「東京箱根間往復大学駅伝競走」(以下、「箱根駅伝」)。1月2日と3日の2日間にわたって開催される、日本の正月の風物詩です。

 第1話は、本選の出場切符をかけた10月の予選会の場面から始まります。主人公の所属する明誠学院大学は、かつては箱根駅伝連覇も成し遂げたほどの伝統校でしたが、ここ2年は出場すら叶わず。まずは予選会の突破を目指すのだが――。きたる箱根駅伝本番に向けて、「俺たちの箱根駅伝」を一部抜粋して期間限定で公開します。(最初から読む

◆◆◆

【3】

「隼斗(はやと)。ちょっといいか」

 諸矢(もろや)から声を掛けられたのは、まさしく夢の後のむなしさに葬式のようだったバスが、相模原(さがみはら)にある寮に到着した後のことだ。解散し、うなだれて部屋に戻る者、悔しさにグラウンドに出て走り始める者――そんな部員たちの後ろ姿を見送っていた隼斗は、諸矢について監督室に入った。

「すみませんでした、監督」

 部屋に入るなり、隼斗は直立不動になって詫びた。

 箱根の夢に賭けたチームメイト、そして監督の思いに応えることができなかった。その責任の重大さは、時間が経つにつれてどんどん胸の中で大きくなっている。

 いっそ、「お前のせいだ」とチームメイトから罵倒された方がどれだけ楽だったろうと思う。だが、そんなことをいう者は誰ひとりとしていなかった。

 それどころか、彼らから出てきたのは、「隼斗のせいじゃない」、「気にするな」、「俺たち全員が、10秒削れなかったんだ」――そんな優しい言葉だ。涙をためた目で無理矢理笑顔をつくり、無言で肩を叩いてくれた仲間もいる。その仲間たちの気遣いは、嬉しくもあると同時に、隼斗の胸を締め付けた。

©加藤木麻莉

 諸矢はどっかりと椅子に座ったまま視線を上げ、立ったままの隼斗をしばらく見ていたが、

「失敗ってのはな、次につなげられるかどうかで、価値が決まるんだ」

 そういった。

 心のわだかまりをすっと溶かす、諸矢らしい言葉だ。

「ランナーとしてだけじゃなく、サラリーマン生活だったり、なんだっていい。それに生かせばいい」

 隼斗はこみ上げてくるものを堪えて、ただ唇を噛んでいることしかできない。