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「学生連合を舐めんなよ!」 「箱根駅伝」予選会後に結成されるチームが秘める可能性《池井戸潤、新連載》

池井戸潤「俺たちの箱根駅伝」#4

2021/12/31

「半沢直樹」「下町ロケット」シリーズをはじめ、ベストセラー小説を書き続ける作家の池井戸潤さん。『陸王』『ノーサイド・ゲーム』『ルーズヴェルト・ゲーム』といったスポーツがテーマの作品も手掛けていますが、現在「週刊文春」で連載するのは、「俺たちの箱根駅伝」です。タイトルにもあるように、本連載の舞台は「東京箱根間往復大学駅伝競走」(以下、「箱根駅伝」)。1月2日と3日の2日間にわたって開催される、日本の正月の風物詩です。

 第1話は、本選の出場切符をかけた10月の予選会の場面から始まります。主人公の所属する明誠学院大学は、かつては箱根駅伝連覇も成し遂げたほどの伝統校でしたが、ここ2年は出場すら叶わず。まずは予選会の突破を目指すのだが――。きたる箱根駅伝本番に向けて、「俺たちの箱根駅伝」を一部抜粋して期間限定で公開します。(最初から読む

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【4】

「どうだ。いい絵、撮れたか」

 編集作業中の部屋に顔を出した徳重亮(とくしげりよう)は、椅子に浅く座って頬杖を突いていた菜月(なつき)に声を掛けた。

「まあまあ、ですかね」

 返事をした菜月の隣の椅子を引いて、徳重もモニタを覗き込む。

 徳重は、今年から念願の箱根駅伝のチーフ・プロデューサーを務めることになっていた。その徳重が制作の要であるチーフ・ディレクターに任命したのが、入社10年目の宮本(みやもと)菜月である。

©加藤木麻莉

 この任命は、社内には驚きをもって受け止められた。

 大日(だいにち)テレビが誇るお正月の人気スポーツ番組、箱根駅伝のチーフ・ディレクターは花形である。

 その花形のポジションに、女性で初めて、しかも先輩ディレクターを押しのけて菜月が任命されたのだから、これはある意味“事件”であった。

 いま菜月が編集しているのは、夜のスポーツニュースで紹介するための予選会の映像だ。この日行われた予選会には、徳重も足を運んでいる。

 波乱は無かった。順当といえば順当な結果である。それは菜月の、どこか物足りなそうな表情にも出ていた。

 たしかに、順天堂、中央、城西、そして日体大――箱根ファンなら馴染みの常連校が順当に、本選へと駒を進めたといえばその通りだろう。

「目玉になるような番狂わせはありませんでした」

 菜月がいった。「そういう意味ではちょっと地味で」

「番狂わせなんか、そうそう起きるもんか」