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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2021/12/28

genre : ニュース, 社会

緒方が逃走を図ってからは、松永の支配がより堅固に

 緒方は由紀夫さん事件よりも前から、松永による肉体的、精神的な洗脳的手法により、彼の指示・命令に逆らうことが困難であった。そこに加えて、緒方が逃走を図った「湯布院事件」や「門司港事件」後に松永が加えた凄惨な虐待によって、その支配がより堅固なものになり、事件への加担を余儀なくされたのだと緒方弁護団は主張する。

 そこでこの弁論要旨では、拘置所で緒方への面接および心理検査を行った、筑波大学大学院人間総合科学研究科教授(当時)の中谷陽二氏による鑑定意見書が公表された。

 なおこの意見書は、被告の刑事責任能力の有無を問うものではなく、責任能力があることを前提としたものである。そこでは次のように、緒方についての考察が明かされていた。

小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

もともと犯罪や暴力と無縁であった緒方

〈鑑定意見書は、「成育史から推察されるように被告人(緒方)はもともと犯罪や暴力と無縁であり、本事件を被告人の元来の性格から想像することは困難である」とし、「被告人の行動や価値観が松永との出会いを契機にして大きく変化していることは明らかである」とする。

 

 そして、「一連の犯行を通して、被告人は松永の指示、命令を忠実に実行し、しばしば松永の意向を先取りし、あるいは率先して行動したように見受けられる。また門司駅で逃走に失敗して以降は、物理的に離脱が可能であるにもかかわらず、逮捕時まで松永と行動をともにしている。このような徹底した服従的態度そのものが異常と言えるのではないであろうか。被告人の行動の外形や結果のみにとらわれるのではなく、犯行時の精神状況ないし犯行に至る心理過程を深く掘り下げるのでなければ、本事件の特異性を解明することは不可能である」と指摘する〉

 さらに緒方は、松永による“被虐待者”であるとして、その関係について説明する。

〈鑑定意見書は、緒方には、松永との関係においてバタードウーマンの特徴がいかんなく示されていると指摘する。バタードウーマン(被虐待女性)とは、「男性によって、男性の要求に強制的に従うように、当人の人権を考慮することなく、繰り返し、肉体的・精神的な力を行使された女性」のことを言う。

 

 緒方に対し、松永が松永の要求に強制的に従うように、緒方の人権を考慮することなく、繰り返し、肉体的・精神的な力を行使してきたことは、先に詳述したとおりであるが、鑑定意見書はこれを以下のように要約する〉

 ここでは、少々長いが原文をそのまま掲載する。