起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。
もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第87回)。
2日にわたった松永弁護団の最終弁論
福岡地裁小倉支部で検察側に死刑を求刑された松永太と緒方純子。2005年4月27日の緒方弁護団による最終弁論に続いて、松永弁護団は5月11日と18日の2日にわたって最終弁論を繰り広げた。
その際に松永弁護団が作成した弁論要旨(以下、弁論要旨)は、私自身が過去に見たことのないほど分厚いものだった。なにしろ別紙を除く弁論要旨本体のみで461ページもあるのだ。
この弁論要旨はまず、緒方の供述の信用性に対して疑義を呈している。それは〈被告人緒方供述の全体的信用性〉という項目の〈序論〉として記される。
〈被告人緒方供述は、本件審理の全ての事案において、最重要証拠と位置づけられていることは明白であるが、被告人緒方の供述の信用性判断においては、一般的に、以下の点に注意する必要があると思われる〉
そう述べたうえで、松永弁護団は次の4点を挙げた。
(1)物的証拠や第三者の供述に裏付けられた部分はごく僅かであること
(2)いわゆる「共犯者の自白」であること
(3)相当期間過去に遡った時期についての供述であること
(4)記憶喚起等に関し、一定の傾向が認められること
これらについて、それぞれ細かな補足説明がされている。たとえば(1)については、〈孝(緒方の父=仮名、以下同)事案における、旅館へ甲女(広田清美さん)らが移動した状況や、和美(緒方の母)事案における和美の死亡日に関する供述等、客観的証拠に反したり、整合性を有さない部分も、多々みられる〉とある。また(3)に関しては、具体例を挙げたうえで、〈被告人緒方の供述が、相当長期間の経過を経てなされたものである点をことさらに強調して、その不明確性や変遷を合理化することは、あまりに安易であるというほかない〉との言葉で、共犯者である緒方の供述が、決して一貫したものではないと訴えている。