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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2022/01/18

genre : ニュース, 社会

緒方に呼びかける「呪文」のように

 自らがこれまでに誘導を繰り返してきたことを鑑みれば、噴飯ものの主張である。しかし松永は、広田由紀夫さん(仮名、以下同)事件で緒方が殺意を認めていることについて触れ、次のようにも言う。

「長期にわたって、取調官と談話して、話をするわけですから、そこに、奇妙な連帯感と協調感が生まれ、これが『強制』や『拷問』や『脅迫』を凌ぐ力を発揮し、由紀夫さんに対する殺意を認める供述を生み出したのではないでしょうか。

『北風と太陽』という童話がありますが、取調官は、純子にとって、まさに『太陽』だったのではないでしょうか。

『上が信用しない』とか、『「甲女(広田清美さん)の話と合わないから、純子がウソをついている」と言われた』という取調官の言葉が、そんな連帯感や協調感の中では、純子にとって、『強制』や『脅迫』以上のプレッシャーとなり得たはずです。

 純子供述については、是非そういった観点からも、信用性のチェックを行ってほしいと思います」

小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

 この発言に至っては、裁判官への訴えだけでなく、法廷でこの言葉を聞いている緒方に対して、こちらに戻ってくるように呼び掛ける「呪文」でもあるように感じられる。

「甲女神話」に「純子神話」と表現し、検察批判

 松永はさらに「甲女神話」、「純子神話」という言葉を駆使して、検察批判を続けた。

「ところで、捜査段階では、純子も隆也さん(緒方の妹の夫)事案について聞かれていたときに述べていたように、『甲女神話』というのがまかり通っていたと思います。

 すなわち、甲女の言うことが絶対であり、花奈ちゃん(緒方の姪)もすのこに縛り付けられて通電されて死んだことにされており、孝さん(緒方の父)も唇に通電されて死んだとされていたのです。

 検察官は、論告の段階でも、甲女神話を完全には捨てきれず、花奈ちゃん事案について『本件における甲女供述の信用性にも捨てがたいものがある』などと言っているのですが、その様子は、大掃除のときに昔のものが出てきて、捨てようかどうしようか悩んでいる人の様子によく似ています。

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