昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「就活の邪魔になると思った」赤ちゃんを窒息死させた元女子大生の被告が語ったこと〈両親はまだ1割程度しか私を理解していない〉

#2

2022/02/05

「文藝春秋」2月号よりノンフィクションライターの三宅玲子氏による「女子大生はなぜ乳児を殺めたか」を全文公開します。(全2回の2回目/前編から続く)

◆ ◆ ◆

 就活で上京した神戸在住の女子大生(当時)が、羽田空港のトイレで産み落とした赤ちゃんを殺害し、遺体を新橋のイタリア公園に埋めたとして逮捕されたのは2020年11月。事件発覚から1年後だった。

 殺害遺棄前後の女性の行動は不可解で強烈だった。飛行機の中で陣痛に耐え、空港のトイレで産んで窒息死させると、女性は殺害後に袋に入れた赤ちゃんの遺体を持ったまま空港内のカフェでアップルパイと飲み物を注文し、写真をSNSにアップしていた。さらに、殺害動機を「赤ちゃんの存在に困った」「就活の邪魔になると思った」と供述した。加えて女性が裕福な層が通うイメージの大学の出身で、赤ちゃんの父親がアルバイト先である風俗の客だったなどのエピソードは、人々の好奇心と加罰意識を刺激した。

性的欲求がわからない

 被告は、自身をアセクシュアルだとしている。LGBTQのひとつで、他者に対し性的欲求を抱かないセクシュアリティのことだ。風俗のアルバイトの動機としている。

「本人には確かにアセクシュアルにこだわりがあります。でも、いわゆるLGBTQの人が来診したときの訴えとは全く違います。おそらく、他者と情緒的に交流するのが苦手という自閉スペクトラム症の特性が関与しているのではないかと私は考えています。そこからいきなり風俗にと考えが飛躍するのも特性の現れです」(精神科医・興野康也氏)

 被告は中学校の頃、同級生の恋愛話で登場する「〇〇くんが好き」とはどういうことかがわからず、周囲と協調できず劣等感を覚えたという。幼い頃から「人ができることが自分はできない」という不安を抱えながら誰にも打ち明けられずに大きくなり、思春期になると恋愛の感覚からも置いてきぼりを食らう。

写真はイメージ ©iStock.com

 コミュニケーションが苦手で孤独を深めた被告が大学生になり、自分も同じ年頃の女性と同じように異性に対する性的な欲求とはどういうものかを知りたい、人と同じようでありたいと願って、風俗でのアルバイトに突き進んだというのだ。興野氏の説明は被告の孤独と寂しさ、他者を求めたい思いを浮き彫りにした。

子どもの発達症は1割を超える

 近年、子どもの発達症は1割を超えるとされる。学校現場によっては特別支援学級の利用者が2割に近いこともあると興野氏は言う。

「被告の限局性学習症は、一般の人にはなかなか見抜けませんが、家族や教育者が丁寧に関われば違和感に気づけたと思います。幼少期から学習や人との交流の苦手さがあるのに『努力不足』とだけ解釈されて、自己肯定感を持てずに成長され、気の毒です。個人の問題というより、サポートできなかった社会の問題だと感じます」

 裁判では補助的に発達症を専門とする精神科医の見解も含めて検討するべきだったと興野氏は指摘した。控訴審で被告人側の証人として意見書を提出する予定だ。