昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

source : 提携メディア

genre : ライフ, ライフスタイル, 医療

「だから患者さんが『俺はもうそんなに長くないかなあ』といえば、『なに言っているんですか、そんなことないですよ』と返すのが通例だったんです。でも私はその対応に疑問を感じていました。それは単に“はぐらかしている”だけじゃないかって。死について患者さんともっと気軽に話せたらいいのにと思いました。

そんな時、胃がんを患う高齢の女性が入院してきたんです。私は中学を卒業して医療機関で働きながら看護学校に通って准看護師の資格を取得し、その後に高校に進学して卒業、結婚出産を経て今度は正看護師を取得するための看護学校に通ったのですが、その女性とは子供を抱えて看護学生をしていた頃に出会いました。私をとってもかわいがってくれたんです」

しばらくしてその高齢の女性患者は、身の回りの世話を宮本さんにだけお願いするようになった。「私が練習台になるから、いくらでも失敗していいんだよ」と、優しい言葉もかけてくれたという。

女性は「サイダーが飲みたい」と私に言った

やがて患者の死が近くなり、痛みをコントロールをするため麻薬を使う段階になった。場合によってはそのまま亡くなってしまうこともある。

「すると、女性が『サイダーが飲みたいんだけど』と、私に言ったんです」(宮本さん)
「待っててね。すぐに買ってくるから!」

自分を慕って好いてくれる患者の頼みに、宮本さんは婦長に断らず、走りだした。売店でサイダーを購入し、それを吸い飲みで女性に与えた時、「あの世にもサイダーはあるのかなあ?」と聞かれたという。

「私は『あるよー。あの世にはなんでもあるし自由になれるよ』と答えました。女性は『そうかな……。ありがとね』と言って、その後私が勤務を終える頃になると『体を拭いてほしい』と頼まれました。もちろんいつも通り拭きました。そして翌日、私は休日だったのですが、女性が亡くなったという連絡をうけたんです。昨日のおだやかな彼女の顔が目に浮かびました、その時、患者さんの死の恐怖や不安をはぐらかさずに『そう思っているんだね』といったん受け入れること、その上で患者さんからでてくる望みを叶える大切さを知ったんです」

z