「好きな者同士が結ばれるのが幸せ、などというのは、何も持たぬ庶民の価値観だ」
林 皇室典範が改正されて“愛子天皇”をお迎えできるのが一番いいような気がするのですが。
御厨 それがまた難しいところで、「具体的な事例を普遍的な法律に落とし込むことはできない」というのが法律論の原則なんです。
林 つまり“愛子天皇”ありきで法律を変えることはできない、と。
御厨 そういうことです。専門家の多くはそこを苦慮しています。
――天皇制は家と家との結婚で維持されてきた歴史だという話が出ましたが、まもなく出る林さんの新刊『李王家の縁談』は、今回の事態を予言しているような内容ですね。
御厨 私も本誌に連載されているのを拝読して驚きましたよ。
林 ありがとうございます。構想は5年前からありましたが、まさか現実がこんな展開になるとは。
――皇室(梨本宮家)に嫁いだ実在の人物、伊都子という女性が主人公ですが、彼女は娘の結婚に際して自身の結婚観をこう披瀝します。〈好きな者同士が結ばれるのが幸せ、などというのは、何も持たぬ庶民の価値観だ。天皇家のすぐ下にいる皇族の結婚は、最終的にはお国のためにあらねばならぬ〉。この一節など、非常に示唆的です。
御厨 身分をまたいだ伊都子はいわば、天皇制のマージナルなところにいた。だからこそ天皇と皇族ということについて人一倍考え、理想形を追い求めたのでしょう。ただ、このような世界はつい半世紀ほど前まではたしかに存在していました。
しかし現代においてこれは皇族の矜持に任せる問題ではありません。眞子さまの結婚でもはっきりしましたが、これは国民の問題であり政治の問題です。私はときの首相が自ら火中の栗を拾い、国民的議論を促すべきだと考えます。みんなで黙り込んでいるから知恵が出ない。議論すれば、たとえ結論に直結しなくても知恵が出てくるものです。
林 世代を超えて議論をしなければ、皇室の有り難みについても若者たちと共有できませんよね。もともと、日本の皇室の存在感というのは圧倒的です。イギリスの王室とよく比較されますけど、皇室はもともと神さまを先祖に持つと言われていて、成り立ちからして他の国とはまったく違う。