昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

顔を紅潮させ…判決の日、松永太はしきりと手書きの「メモ」を弁護人に渡していた

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #89

2022/02/01

genre : ニュース, 社会

 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第89回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

「主文は最後に……」記者たちは一斉に席を立ち、法廷外へ

 2005年9月28日午前10時、福岡地裁小倉支部第204号法廷の傍聴席に私はいた。この日、初公判から約3年を経て、ようやく松永太と緒方純子に判決が下るのだ。

 まず、紺色のトレーナーの上下を着た松永が刑務官に付き添われ、一礼して入廷する。手錠をはめられた状態で、肩をいからすようにして被告人席に向かって歩くが、これまでのような薄笑いは見られない。16年以上昔のことで記憶は薄くなっているが、残されたメモには「目が涙目風」との記載がある。

 続いて、白いブラウスに薄茶色のスカートを穿いた緒方が一礼して入廷した。彼女については同じメモに、「黒髪、肩まで短く切り揃えられている」とある。

 やがて裁判官が姿を現し、開廷を宣言する。裁判長が証言台の前に立つ松永と緒方に対し、「主文は最後に……」と口にすると、記者席にいた記者たちが一斉に席を立ち、法廷外へと出て行った。

動きの少ない緒方に比して落ち着きがない松永

 判決理由を記した判決文が厖大な量であるため、同要旨を朗読することを説明した裁判長は、「詳細は後日尋ねてください」と言って、広田由紀夫さん(仮名、以下同)事件から始まる判決理由を読み上げていく。

 被告人席に戻った松永の様子については、「うつむき、(手元の)書類に目をやる」とある。また松永との間に男女2人の刑務官を挟んで横並びに座る緒方については、「じっと前を向く」と記している。動きの少ない緒方に比して松永には落ち着きがなく、彼の様子について、「せわしなく体を動かす」、さらに「体を左側に傾ける」とも書いている。

写真はイメージ ©️iStock.com

「松永の公判供述は信用性に乏しい……」

 裁判長からそんな言葉が出た直後、私はふと気づいたのだと思う。「M(松永のこと、以下同)ちらほらと後頭部に白髪が混じっているのが見える」と書き留めていた。

 由紀夫さん事件の結論が読み上げられているとき、松永は脇に置いていた分厚い書類を手にして目を落とした。そしてメモ用紙になにか伝言を書くと、上半身を回して背後にいる弁護人に手渡す。

z