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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2022/02/01

genre : ニュース, 社会

犯情の悪質さが突出した凶悪事件

 そして松永と緒方の犯行の「犯情」について、以下のようにまとめている。

〈以上のとおりであって、由紀夫事件及び緒方一家事件を通じて見ると、犯行の罪質、犯行に至る経緯、動機、犯行態様、手段方法の残虐性、結果の重大性、被害者の数などに照らし、犯情の悪質さが突出しており、本件は犯罪史上稀に見るような凶悪な事件であるといって差し支えない〉

 その後、犯行の首謀者である松永に対して、緒方の関与の度合いについての検討が行われ、〈当裁判所も、緒方が松永から度々理不尽な通電や暴行、責任の押し付け等の仕打ちを受けていたことは否定しない〉としながらも、次の結論が出されている。

〈緒方は、松永によって意思を抑圧され、意思に反して本件各犯行に加担したものではなく、松永の意図に完全に同調して、松永の指示を受けつつも、それなりに主体的で積極的な意思で、つまり自己の犯罪を遂行する意思で犯行に加担したものといわざるを得ない〉

幼稚園勤務時代の緒方純子

 このときも、松永は判決文の内容に関心がないかのようになにかをメモして、弁護人に渡している。一方の緒方に表情の変化はない。

「一般情状等」における、松永・緒方の性格

 やがて松永と緒方の〈一般情状等〉となり、それぞれの経歴に続いて、性格や供述態度等が紹介された。そのうち興味深い内容である〈性格〉について抜粋する。

●松永の性格

〈松永には、他人を単に自己の利益を達成するための手段ないし経済的収奪の対象としか考えず、人間の生命、身体、人格を軽視する自己中心性、反社会性、弱者や無抵抗な者に対し、暴行、虐待を加える残虐性、被害者らの惨状を目の当たりにしながら痛痒を感じない冷酷さや非情さが顕著であり、嗜虐性さえ疑われる。自己の犯罪が捜査機関に探知されることを過度に恐れる小心さを有する一方、他人に対する猜疑心が異常に強く、自己を裏切った者に対しては執念深く報復せずにはいられない。他人を言葉巧みに騙したり脅したりして弱みを握り、支配下に置いて収奪しようとする狡猾さも、松永の性格の特徴を示している〉

●緒方の性格

〈松永と知り合い交際を始める前の緒方は、気性の強い一面はあったが、優しく真面目で芯の強いしっかりとした極普通の性格であり、本件各犯行に結び付く犯罪性向はなかった。ところが、松永と交際し、内縁関係に入るや、それと正反対の性格、すなわち、狡猾性、粗暴性、残忍性等の犯罪性向を徐々に身に付けていき、本件各犯行時においては、殺人等の重大犯罪を次々に敢行するほどにその犯罪性向を深化させるに至った。緒方がそのような犯罪性向を獲得し深化させた原因は、緒方が、若くして、家族や親族、職場や友人等の本来人間が社会性を身に付け、これを錬磨すべき場を切り捨ててしまい、松永という独特で強力な個性を持った人間と二人だけの、狭くかつ異常な世界に身を置き、松永の考え方を良く吟味しないまま、殆ど無批判に受け入れ、松永の暴力さえ愛情と受け止め、松永に迎合し、常に松永の意に沿うように自らの行動や考え方を選択し続けてきたことにあるといって過言ではない。そのような人格形成過程を前提とすると、緒方がこのような犯罪性向を身に付けたことについては、緒方自身にも相応の責任がある〉

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