被告人両名をいずれも死刑に処する
最後に〈被告人両名の罪責の重大性〉について、松永については〈本件各犯行すべての首謀者であり、最大の非難に値する〉、〈犯罪性向は強固で根深く、矯正の見通しは立たない〉との強い言葉が並ぶ。また、緒方の罪責についても、〈もとより松永のそれよりは小さいものの、それでも並外れて大きく、誠に重大である〉として、〈緒方の犯罪性向は矯正不可能とはいえないこと、緒方には幼い子が2人おり、母親による監護も子らの健やかな成長にとって重要であることなど、緒方のために酌むことのできる情状を最大限考慮しても、本件各犯行の犯情、特に由紀夫事件及び緒方一家事件の犯情は依然として誠に重大であって、酌量軽減すべき余地はないというほかない〉とした。
それらを裁判長が朗読している最中の様子について、私は次のようにメモしている。
「M手で顔をこする。Oすーっと息を吸う」
判決理由の最後に、裁判長が〈結論〉を口にする。
〈以上のとおりであって、当裁判所は、罪刑の均衡及び一般予防の見地に立って考えるとき、被告人両名に対しては、いずれも極刑である死刑を選択し、これをもって臨むのはやむを得ないと判断した〉
このとき、緒方は頷くように頭を下げた。
朗読を終えた裁判長は、松永と緒方を証言台に立たせると、おもむろに告げた。
「主文、被告人両名をいずれも死刑に処する」
判決を聞いた松永・緒方の態度は
言い渡しの直後、松永は腕を組み、顔を上に向けた。緒方は深く頭を下げた。
その後、裁判長から控訴期限を伝えられると、2人は被告人席へと戻された。そして裁判長が閉廷を告げて間もなくのことだ。
「先生、控訴審ですよ。やりますよ。どうもお疲れさまでした」
刑務官に手錠をかけられながら、顔を紅潮させた松永が笑顔を作り、弁護人に向かって法廷内に響き渡る甲高い声を上げたのである。そして刑務官に両脇を挟まれながら、緒方に目をやることもなく、肩をいからせて法廷から出ていった。
一方の緒方は、そんな松永の姿に構わず、退廷時に検事席に頭を下げ、続いて松永弁護団を含む5人の弁護人の一人一人に「ありがとうございました」と礼を言うと、遺族席にも頭を下げ、微笑を浮かべて法廷を後にした。
(第91回に続く)
