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2022/02/02

思い出すにも空恐ろしい予期せぬ出来事

 実はその前に思い出すにも空恐ろしい予期せぬ出来事に出会ったことがある。あれは私が生まれて初めて味わった恐怖の体験だった。ある時誰かが持ち込んだマリアナ諸島のマウグと言う奇怪な島の写真を見て衝動的にこの島でダイビングをしてみたいと思い立ち仲間を集めて船をしたてて出かけたものだがその船の速度が遅く五日がかりで、ようやくたどり着いたマウグの一つ前の火山島でともかくまず潜ろうと気がはやり本船からボートに飛び移る時足につけていたフィンがひっかかり仲間の膝の上に背中から落ちて肋骨を折ってしまった。夕食の後激痛が襲い身動きも出来ずにともかくもはるか南のサイパンの病院に行って手当てをと痛みを堪えさらに丸四日かかってたどりついたサイパンの病院で、もしも背骨を痛めているなら処置は出来ぬと言われ、さらにグアム島の海軍病院に回され痛みの中もしも脊髄をいためていたらこれは一生ものだと覚悟し恐る恐るにたどり着いたものだった。

 レントゲンで背中の傷を調べる間の緊張はまさに固唾を呑む思いだったが、マレイシア人の若造の医師は写真を眺めて「OKノーハーム」と言ったがベテランのレントゲン技師が注意して写真を指さしたらただ一ケ所小さなひびが見えた。固唾を飲む思いで痛みを堪えつづけた延べ一週間の背骨への懸念が解けてほっとしホテルに入り翌日の飛行機の予約をして一人で祝杯を上げたが、五日ぶりのまともな食事の後の祝杯は部屋にもどったらたちまちまた激痛をよみがえらせはしたが、それももうなんとか慣れたものだった。

 しかし日本に戻ってなお調べてみたら背中の肋骨はなんと三本も折れていたものだったが。

 痛みをこらえながらの粗末な船での長旅とサイパンで宣告された背中の怪我への息をつめる思いで過した恐怖への経験は思っても見なかった生まれて初めての体験だった。

膵臓の辺りに妙な影

 そして短命に終わった父と弟に比べての長寿の結果迎えた八十の齢を過ぎて間もなくある寒い日の夜散歩に出かけた折りに靴の紐が上手く結べなく揚げ句に散歩の道を迷ってようやく家にたどり着き、そんな自分の様子に気がつき主治医に質したら即入院と言うことで軽い脳梗塞とわかった。これまた今まで好き勝手に生きてきた私にとっては青天の霹靂に似た予期せぬ出来事だった。

石原慎太郎氏(右)と弟・石原裕次郎氏(左) ©文藝春秋

 それもなんとかクリアして昨年八十七の誕生日を迎えたが私にとっての予期せぬ出来事はまたしても私の人生を彩ってくれた。

 それは今年の一月に夜間の頻尿に悩んで、長年前立腺の検査をしてもらっている東海大の松下医師に相談に赴いたら念のために腎臓との関わりを調べるためにエコーを撮りましょうと言うことで撮影をしてもらった。

 ところが出来上がった映像を眺めて松下医師が首を傾げ、「膵臓の辺りに妙な影があるけど気になりますなあ、この月末本院から膵臓の専門家が来るので一度よく調べたら」と、建言してくれたものだった。

 その一言が妙に気になって、せっかちな私は月末が待ちきれずに翌日かかりつけのNTT東日本関東病院に出かけて検診を頼んだ。そして胃から小さな穴を開け胃の裏側の膵臓からバイオプシーして細胞を取り出し病理検査をおこなってもらった。

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