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2022/02/02

現代最高の技術が醸し出す恩恵

 そしてその差配は今まで在り得なかった世界をすら創出する。この国に肝心の機械そのものはすでに七つは存在するとはいうが、多くのすぐれた医師たちによって重複運営されている唯一のあの国立の病院に立ち込めている明るく澄んで乾いた他の大病院と全く異なる明るい雰囲気はあの施設が保証して与えている命の確かな再生をはっきりとまざまざ証明しているような気がする。

 他のいかなる高名な大病院にも漂っているあの、どこか陰湿で不透明な雰囲気は患者たちが抱えた病の『死』の予感とはんらんしている死の余韻とその薄暗さへの怯えの雰囲気に他ならない筈だ。

 私が延べ二月近く通ったあの施設の、他のいかなる大小を問わぬ普通の病院にもたちこめて在るいかに建物の中が明るくとも薄暗い雰囲気とは全く異なる、乾いて明るい情景は来ている患者のすべてが癌を背負った者たちに他ならず、その付き添いの家族もそれを心得た者ばかりなのに、恐れたり深く思い込んだりしている気配は少しもなく、建物全体が湿りもなく乾いて透明に明るい雰囲気なのは医療における現代最高の技術が醸し出す論理を超えた恩恵に他なるまい。

重粒子線の照射室 ©共同通信社

 放射線の治療を終えた後理事長の案内で見学した地下のテニスコートの倍ほどもあるスペイスで稼働している重粒子線をつくりだしている機械は昔の機関車の倍ほどもある重厚なものだったがあれが既にこの国には七台も設置されているのにそれを稼働治療する施設がまだまだ数少ないというのはどうしたことだろうか。高齢化が進み日本人の三人に一人が癌で死ぬという現状に対処するに最適な技術を運営して国民を救う最有効な手立てとしての重粒子線を駆使する施設を国家はコロナ騒ぎが収まった後に最優先の事業として行うべきに違いない。

 これは天の声に救われて地獄の底から予期せずに這い上がった男の国への最後の建言である。

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