昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

9人が死亡した北九州監禁連続殺人事件 控訴審の判決も「主文後回し」で始まった

完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件 #91

2022/02/15

genre : ニュース, 社会

 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第91回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

弁護団に説得され、緒方も『量刑不当』として控訴

 2005年9月28日、福岡地裁小倉支部で松永太と緒方純子への死刑判決が言い渡され、松永は即日控訴したが、緒方は控訴については逡巡していた。当時、この事件を発生時から取材していた元福岡県警担当記者は言う。

「死刑判決を受け入れるつもりだった緒方は、自分が量刑に口を出せる立場にないと、控訴に対して消極的でした。しかし、死刑を不当だと考える緒方弁護団が3回にわたる接見で説得し、彼女も最終的に応じたのです。その結果、10月11日に緒方弁護団が福岡高裁に『量刑不当』として控訴しました」

幼稚園勤務時代の緒方純子(1983年撮影)

 福岡高裁で控訴審が始まったのは2007年1月24日のこと。そこで松永弁護団は一審同様に無罪を主張した。一方の緒方弁護団は、一審でほぼ全面的に認めていた起訴事実について、「(緒方は松永による)過酷な虐待で精神的に支配され、その“道具”として殺害行為を実行した」として、一審判決には事実誤認があると訴え、無罪を主張した。

 それから月に2回のペースで審理が行われ、一審判決から2年後となる2007年9月26日、福岡高裁第501号法廷で、彼らへの控訴審判決が下されることになったのである。

“主文後回し”で始まった控訴審判決

 判決の日、松永は法廷にダークグレーのスーツに白いワイシャツ姿で現れた。入廷時にまず一礼し、続いて弁護人に一礼、そして裁判官席に一礼してから、うっすら笑みを浮かべて被告人席に着席する。髪の毛はさっぱりと切り揃えられ、長い拘置所生活の影響か、肌の白さが際立つ。席に着いてからは、銀縁の眼鏡をかけて手元の資料に目を落とした。

小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

 一方の緒方はうつむきがちに入廷し、裁判長に一礼をして、松永と少し離れた横並びの被告人席についた。長袖で薄緑のストライプの入った白いブラウスと、薄茶色のロングスカートという姿。長く伸びた黒髪の後ろ中心部が結わえられており、数本の白髪が見える。被告人席での彼女は、両手を膝の上に置き、背筋を伸ばし真っすぐ正面を見つめている。

 双方の弁護人が無罪を主張するなかで始まった判決公判は、裁判長の「まず理由から言います」との言葉による、“主文後回し”で始まった。

 厳しい判決が下される際に用いられることの多いこの状況に対して、緒方は姿勢を変えずに真っすぐ正面を向いたままで臨み、松永はまったく話を聞いていないような素振りで手元の資料に目をやっている。