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連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2022/02/15

genre : ニュース, 社会

松永側の主張

 判決文(以下同)はまず、〈本件の全体像について〉という項目のなかで、〈おおむね原判決(一審判決)が「犯罪事実」及び「事実認定の補足説明」の項で詳細に認定、説示するとおりであり、当審における事実取調べの結果によってもこれを左右するに足りない〉と、一審で認定された犯行の経緯と犯行状況等について追認した。

 そのうえで、松永側、緒方側の各主張について個別に検討することになり、まず松永側の主張が検討された。

 ここでおおまかに松永側の主張をまとめておくと、まずすべての事件について、松永は殺害の指示も実行もしていないというもの。そして緒方一家6人の殺害(1件は傷害致死罪)については、知人であった大分県の別府湾で水死したとされる末松祥子さん(仮名、以下同)の殺害を緒方が実行。それを緒方一家に知られた彼女が、口封じのために一連の犯行を引き起こしたとの説明をした。ちなみに、この緒方一家の殺害理由については、控訴審になって新たに持ち出されたものだ。

 松永側の新たな主張に対して、判決文はまず、松永が祥子さんの死を、緒方一家を支配するために利用したと指摘する。

緒方一家に対し、祥子さん殺害を利用した松永

〈平成9年(1997年)4月ころ以降、緒方が、湯布院町(大分県)に働きに行って、松永や緒方一家にも所在を明らかにしないでいる間に、松永は、緒方一家の者に対し、緒方が詐欺の他、殺人(祥子事件)まで犯していると思い込ませることに成功した。孝(緒方の父)夫婦の親子の情や、世間体を気にする特性を巧みに利用し、自分が時効まで逃がしてやると誘って、信じ込ませ、すがりつかせた……〉

 そのうえで、緒方による祥子さん殺害の可能性について、次のように述べた。

〈しかし、そもそも、祥子の死亡に関し、緒方の関与を裏付ける客観的な証拠は何ら存しないし、緒方も逮捕後祥子を殺害したと認めたことはない。警察においても、祥子が緒方の借金の連帯保証人になっていることから、緒方に関心を持っていたふしはあるが、緒方を正式に殺人事件の被疑者として扱った形跡はない。松永は、その犯行状況を緒方から聞いたと述べるが、その供述するところは具体性がないほか、緒方が、別府市において松永と同棲を始めようとする祥子に対し、嫉妬の余り同女を殺害したとする動機の点も、松永が述べているだけであって裏付けのないことである〉

 そうしたことから、判決文は松永側の新たな主張に対し、以下の結論を出している。

〈したがって、祥子事件に緒方が関与したということは、松永において、緒方一家に多額の金銭的負担をさせるための虚構であったと考えられる。(中略)

 

 そうすると、松永こそ、孝らから金を搾り取れなくなった時点において、偶々孝に対する傷害致死事件を引き起こすに至り、和美(緒方の母)以下の緒方一家の存在は松永にとって負担となるばかりで、しかも自らの悪行を知っている緒方一家を殺害してその口を封じることに利益を感じる事情があり、緒方一家の各人を殺害する強い動機を持っていたと認められる〉

 続いて判決文は、各事件について「事実誤認」と訴える松永側の主張について、個別に評価を下していく。そのうち一部を抜粋する。

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